タイトル

固溶体

恒温変態曲線(TTT曲線・S曲線)

連続冷却変態曲線(CCT曲線)

よく用いられる熱処理の説明図

固溶化(溶体化)熱処理


固溶体

固体の状態で、Fe(鉄)に炭素やその他の元素が素地(マトリックス:matrix)に溶け込んでいるものを「固溶体」と言います。
鉄-炭素の2元系合金では、炭素量がおよそ2%を超えると、鋼ではなく、鋳物と分類されますが、その鋳物では、 鉄-炭素合金の固溶体、 炭素の合金(炭化物)、遊離した炭素などが組織中に混在している状態になります。

また、鉄-炭素の2元系の鋼にそのほかの元素が加わると、それらの元素が素地(マトリックス)中に溶け込んで固溶体を作ったり、 炭素の合金(炭化物)あるいはその他の合金を作って混在するなど、様々な場合があります。こうなると、2元系ではなくなりますので、状態図も変わったものになりますが、それらの多元系状態図はほとんどありません。

合金元素の多い高炭素鋼を、高温の「融体(液体)」状態から温度を下げた場合に、炭化物が生じてそれが固溶体の中に混在して固溶体となるものがあります。それを、焼入れなどの熱処理温度に加熱しても溶け込みませんので、この熱処理温度で素地中に溶け込まない炭化物を「共晶炭化物」といいます。
その共晶炭化物とは異なり、500℃以上の温度で焼戻しした際に、 炭化物が析出して硬さが上昇するものもありますが、その際に生じる炭化物は「共析炭化物」と呼ばれます。すなわち、焼入れ温度では、固溶体としてその成分が溶け込んでいるということです。

鋼の温度を変態点以上にあげて、面心立方晶に変態した状態(焼入れ温度になっている状態)を「オーステナイト」と 呼びますが、この状態は、もちろん、高温のために鋼は柔らかくなっていますが、固体の状態です。そして、高温の固体の状態から、 それが冷却される過程で、固体内で組織や結晶構造などが固体の状態で変化(変態)していきます。

オーステナイト状態にある高温の鋼(たとえば、S45Cなどの低合金のφ10程度の鋼を考えるといいのですが)を、 水冷などで非常に早く冷却をすると、 「マルテンサイト」という組織が出現して硬化しますが、その冷却の速さを変えて、 少し遅い冷却(例えば、油冷や空冷)をすると、フェライト、マルテンサイトなどの単相と、それ以外の、トルースタイト、 ソルバイト、 パーライトなどと呼ばれる層状になった混合組織になります。
これらの熱処理として説明される状態の変化は、 すべて、固体内における固溶体の変化です。


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熱処理を説明する図表

熱処理の勉強を専門的に始めるとすぐに、熱処理の原理を説明するために、鉄-炭素2元系状態図(こちら)、 恒温変態曲線、連続冷却変態曲線などを学びます。しかし、近年では、それら個々の解説よりも、これらを混合した図で冷却過程や組織について説明されることが多くなっているようですので、 一般的な説明とは異なりますが、私なりにさらっと説明します。


恒温変態曲線(TTT曲線・S曲線)

ある鋼種について、オーステナイトに加熱した鋼を、オーステナイト化温度以下の温度に品物を保持すると、時間が経過すると変態してして、組織が変わります。それを表した図が恒温変態曲線です。
時間-温度-変態曲線Time-Temperature-Transformationの英語頭文字をとって「TTT曲線」と呼ばれ、一般的には、その形がアルファベットのSのようになることで「S曲線」とも呼ばれます。

共析鋼のTTT曲線例

この図は、共析鋼の例です。
この図では、800℃程度でオーステナイト化した状態の焼入れ温度から所定の温度まで急冷して、その温度で保持すると、時間経過して変態するので、 その「温度-時間」の点を結部という方法でこれが作成されます。

等温で保持した後に、常温で顕微鏡組織を観察し、その組織を分類してこれが作成されますが、この図では、保持温度の違いによって、オーステナイト状態のものが、パーラート、 ベイナイト、マルテンサイトに変態していることが示されています。

図のBs-Bf点線を例にとりますと、およそ800℃の焼入れ温度から420℃の熱浴中に試験片を急冷して保持すると、約4秒後にべーナイト変態が起こり、 1分少々でその変態が完了しますが、その後いくらその温度に保持しても、組織の状態は変わらない・・・ということが読み取れます。その状態のものを十分に時間が経過してから常温まで冷却して冷却して硬さを測るとHRC40程度になっており、その組織を観察すると、羽毛状のベイナイトという組織になっているというように読み取ります。

すなわち、この図は、説明用につくられていますので、恒温変態が完了してある時間経過後に常温まで冷却したときの硬さや組織の呼び名が示されています。
通常の図では、Ps、Pf、Ms だけが示されているものが多く、 このようなその他の情報は示されていないのが通例です。

ここで、550℃付近で左にせり出している「S字」の出っ張りを「パーライトノーズ」と言い、一般には、「焼入れの際にそれにかかるような冷却をすると、 十分に焼が入らない・・・」という説明をされます。
この図では、800℃程度から冷却を開始して、1秒以下で550℃以下に冷却しないと、一部がマルテンサイトにならずに、 柔らかい組織が出てくる・・・という説明をされます。しかし、この図自体も説明用の図で、本来の恒温変態曲線とは異なっているのですが、熱処理説明用としては、 このほうがわかりやすいので、ここでもそのような説明をするために引用しています。

実際の焼入れでは、時間とともに温度が降下しますので、この図があれば、パーライトノーズにかかる温度と時間の推定や、 組織検査した結果からの焼入れ過程の冷却状態の温度推移が推定出来るということでこの図が熱処理の説明で利用されます。
いろいろな成分の鋼についてのS曲線が公表されていますので、近い成分のものを利用するといいでしょう。

ここで、Msはマルテンサイトが生成し始める温度を、Mfはマルテンサイト変態が完了する温度です。
マルテンサイト変態は、時間変態ではなく、温度変態ですので、上図では、2分程度以内に220℃程度に品物の温度が低下しておれば、それ以下に温度が低下すると、 時間が関係なく十分硬化するということもこの図からわかります。
本来は、この恒温変態図は温度を一定に保持したときの変態を示すものですので、そのことを頭の隅にとどめておいてこの図を見るようにしてください。

このMs点は、熱処理操作的は重要で、たとえば、焼割れや変形をコントロールするために役に立ちます。別に説明する、マルクエンチの温度なども、それが基準になります。

Ms温度を成分値から算出する計算値がいろいろ公表されています。おおよその値は、それを利用して知ることができます。下の一例を示しますが、他も同様で、炭素量(C%)の影響が大きいことがわかります。
採用する計算式によって、適用できる成分範囲があるものもありますし、採用する計算式によって、20-30℃程度は差がありますが、結構、役に立ちます。

Ms温度=550-350×(C%)-40×(Mn%)-35×(V%)-20×(Cr%)-17×(Ni%)-10×(Cu%)-
   10×(Cu%)-10×(W%)+15×(Co%)

Mfはマルテンサイト変態が完了する温度です。Mfが常温以下の場合には、未変態のオーステナイトとして組織中に残存することになります。ですから、オーステナイト系のステンレス鋼などのように、 Msが常温以下のものは、焼入れによって硬化しないということになります。


連続冷却変態曲線(CCT曲線)

これは、焼入れ時の冷却速度によって、その組織や硬さとの関係を示した図表です。
Continuous-Cooling-Trancformationの頭文字をとっていますが、冷却速度を制御する焼入れ冷却装置を利用して、等速に冷却をして常温まで冷却した後の硬さなどを示しています。

共析鋼のCCT曲線の例実際に使おうとしても、同じような鋼種がない・・・ ということになるかもしれませんが、いろいろな成分(鋼種)について公表されていますので、近いものを利用して、焼入れ後の硬さとその冷却方法から焼入れ過程が推定できます。

これを作成するには、変態の温度を、熱膨張計、その他の機械を使って補完してこの図が作成されますが、焼入れ性の低い鋼材の質量効果などを推定するのにも利用できますので、 S曲線より利用度が高いと思います。それらは、専門的な書籍で学んでください。

これは、等速度の冷却図ですので、実際の焼入れでは、定速での温度降下をしませんので、現実とは違異はあるのですが、常温になったときに測定される硬さから、 平均の冷却速度での冷却過程が推定されますので、厳密ではありませんが、利用価値があります。

図は0.76%Cの共析鋼の例です。
ここでは、Psの線にかかると、パーライトが析出して、焼が入らなくなってくることが示されていますが、Psにかからないように冷却するためには、 毎秒300℃程度以上の冷却速度が必要だということがこの図から読み取ることができます。
そして、そのような高速で冷却すれば、881HV(66HRC)という、非常に硬い硬さが得られるということがわかります。 しかしそのためには、1秒程度で500℃程度まで温度低下をさせなければならないので、水焼入れをしても少し品物が大きくなると、難しいということがわかります。

CCT曲線は、小さな品物や、比較的焼入れ性の悪い鋼種の焼入れ状態を推定するのには役に立つのですが、近年は非常に焼入れ性に優れた鋼種が増えており、 大きな形状の品物を扱うことが多いために、これでは使いにくいことになります。このために、例えば、日立金属(株)では、焼入れ性の良い鋼種であっても、サイズが大きくなった時の硬さ推定や、 中心硬さの推定ができる「半冷曲線」というものを作成して公表しています。

また、最近では、パソコンソフトなどを用いて、比較的簡単に、加熱冷却シミュレーションができるようになってきていますので、それを利用して焼入れ状態を検討することも可能です。 しかし、当社でも、PCを用いてシミュレーションをすることがありますが、熱電対を用いた冷却過程の実測とはかなり異なってきますので、それらを理解して補正するなど、うまく使う必要が出てきますが、大型の品物の冷却状態を推定することなどには、実験しなくても推定できる便利さがあります。

このCCT曲線は、熱処理講義には説明されるのですが、「熱処理現場ではどのように使ったらいいのか?」は、私自身もよくわかりません。 当社の実情では、 焼入れ性の低い鋼種を取り扱う割合が減っていますので、「パーライトノーズにかからないようにするためには、 その温度まで何秒で冷やせばよいか・・・」などという使い方は ほとんどやらなかったようで、やったことと言えば、構造用鋼の焼入れなどで、焼入れしたあとの硬さが出なかった時などに、 その冷却過程を考察するような使い方程度しかしていなかったようです。(m(__)m)

実際の熱処理では、連続的に等速で冷却するというのは特殊な条件で、たとえば、「油冷する」と言っても、 油温に達する温度まで冷却すると、特に大きな品物では、 品物の内外の温度差から、鋼種によっては、焼割れや極端な曲りの発生する懸念があるので、 実際の熱処理作業では、冷却の中途で引き上げたり、あえて急速に冷やさない方法をとることも常に行われます。

むしろ、油温(通常は60℃程度)まで完全に冷やすことの方が少なく、 また、図に示されているような「連続冷却」することはありませんし、通常の熱処理では、表面硬さが重要ですので、焼入れ硬さを測って、 それを基に焼戻し温度を決めるという流れでしたので、私自身も、これらの図は、熱処理勉強用の特殊なグラフだなのだろうと思っていたくらいでした・・・。(笑)


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よく用いられる熱処理の説明図
恒温熱処理図

焼入れにおける温度と時間の関係を説明する際に、 上記のS曲線とCCT曲線をまぜて説明される場合がよくあります。右のような例ですが、ここでは、油焼入れ(OQ)、オーステンパー(AT1~AT3)、マルクエンチ(MQ)、マルテンパー(MT)が示されています。

S曲線の説明図にもあったのですが、ここでは、焼入れする際に、パーライトノーズにかからないように冷却してから、ある温度に保持する熱処理操作が説明されています。
一定温度で保持する熱処理を恒温処理と言いますが、恒温処理には、 ソルトバスなどの恒温槽(180℃~700℃程度)や高温の油脂類(~300℃程度)が用いられます。

これらの恒温処理は、機械的性質を調整したり、変形などを防ぐ目的などにも応用されることがあり、温度と時間を巧みに利用した熱処理方法といえるでしょう。

これらの方法とは別なのですが、高速度鋼の焼入れでは、古くから熱浴が利用されており、オーステンパーの温度域では、Psが非常に長時間側になっていますので、1100℃以上の焼入れ加熱温度から、 550℃程度の恒温槽に品物を入れて、品物内外の温度を均一にしてから空冷する焼入れ方法が行われています。

これによって、正常な焼入れ状態(硬さなど)を保って、 なおかつ変形を少なくするための焼入れ方法ですが、これは、上記のオーステンパー処理ではないので、 「熱浴焼入れ」と呼ぶきべるものですが、慣習的に「オーステンパー」という人が多いようです。

同様に、当社のソルト熱処理では、油冷や水冷に変えて、200℃以下のソルトバスを使用して冷却することが日常的に行われています。高温で保持することによって、 油冷と比べて若干、焼入れ硬さやじん性が変わる鋼種もありますし、また、マルクエンチやマルテンパーのような効果が出る鋼種もあります。しかし、 個々の鋼種にあわせた恒温槽の温度コントロールをしていませんので、品質を操作するいうよりも、作業性を考えて行っている操作といえるでしょう。

これらのソルト熱処理作業は、長年の習慣での熱処理操作が継承されていますが、特殊なことができる可能性を含んだ設備といえます。たとえば、鋼種に応じて、 Ms点や冷却速度を把握するとか、時間コントロールによって、今までと違った品質のものができる可能性を秘めた熱処理ができると思われます。
ソルトバスは、マイナーな設備でもあり、このような恒温処理も、次第になくなっていき、語られなくなっていくのかもしれません。一方では、制御技術の進歩によって、 油冷などにおいても、疑似的な恒温処理ができるようになっていくかもしれませんので、このような熱処理法も、見直される時が来るかもしれません。


固溶化(溶体化)熱処理

鋼は鉄(Fe)中に炭素その他の合金元素が固溶しています。これを加熱してオーステナイト状態にして急冷すると、炭素量が高い鋼種は焼入れして硬くなりますが、 炭素量が少なく(たとえば0.1%以下)、オーステナイトを安定にするマンガン(Mn)ニッケル(Ni)クロム(Cr)などの元素が多い鋼種は、急冷することで常温でも (あるいは0℃以下でも)オーステナイトの状態になります。オーステナイト系ステンレスと言われるものがそれですが、よく使用されるものに SUS304 SUS316 などがあります。

これらは炭素量が少ないほど、またそれらの合金元素が多いほどオーステナイトの安定度は高くなりますが、高価になるのと、成分によって、酸化、耐食、 耐低温などの性質が異なることもあり、それぞれに特徴のある非常に多くの鋼種があります。

オーステナイト系ステンレスは耐熱性、耐酸化性、耐食性(耐薬品性)、耐低温性などに優れています。

これらの多くがアメリカで開発されたのですが、鋼種番号に統一性がないまま、JISでも同番号で規定されています。おおよそ300番台がオーステナイト系にあたっていますが、 200番台でオーステナイト系に分類されるものもありますし、300番台でもオーステナイト系でないものもあるので注意する必要があります。

これらの鋼は、製造工程で圧延して製造されたものをオーステナイト化温度(1100℃程度)に加熱して水冷することで、非常に軟らかく、耐食性の良い状態になります。 これを固溶化(溶体化)と言い、その熱処理を固溶化(溶体化)熱処理と言います。

オーステナイト化温度からの冷却が遅くなると、炭化物の凝縮などが結晶粒界に析出して、加工性(特に延性)や耐食性が低下します。また、 500℃以上になる環境では、正常に溶体化されていても再加熱時に同様の現象が起きます(これを鋭敏化とも称されます)ので、形状が大きい品物や高温で使用する品物はこのことを知って、安定性の高い鋼種を選ぶ必要があります。

オーステナイト系ステンレスで最も多く使用されているのは 18-8ステンレスと言われるSUS304ですが、これは、「準安定系」と呼ばれるように、 強度の機械加工を加えたり、-150℃程度の極低温に長時間さらすと、マルテンサイト変態することが知られており、また、強加工中にしばしば磁化することもあります。 通常の焼入れ硬化する鋼は、オーステナイト化温度以下での応力除去(低温焼きなましなど)や磁気変態を利用した変態点以下での熱処理による「脱磁」ができますが、 SUS304は、再度、溶体化処理をしないと解決しません。溶体化処理をすると、溶接品や薄い品物などでは変形が懸念されますので、この点に注意しておかなければなりません。


◎水靭(じん)処理

オーステナイト系ステンレスは低硬さのために他の焼入れ鋼に比べると耐摩耗性に劣りますが、土砂摩耗(ABRASIVE WEAR)に強い高マンガン鋼と言われる高炭素で高マンガンの成分系の鋼がありますが、これもステンレスの溶体化と同じ処理をしますが、 これを「水じん処理」と言います。全鋼のものはあまり経験がないのですが、パワーショベルの先などにマンガンオーステナイト系の鋼種を肉盛りしたものを水じん処理することがあります。 そうすると、オーステナイト状態になって柔らかくなり、機械加工することができますが、ひとたび掘削工事をすると、表面がマルテンサイト化し、 非常に硬くなり、ごく表面だけが硬くて中が柔らかい状態のために破壊しないために非常に都合がよく、このような使い方をする特殊な鋼もあります。このように生じたマルテンサイトを 「加工誘起マルテンサイト」と呼ぶこともあります。

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