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タイトル

変態

結晶構造の話(bcc/fcc)

結晶構造の変化

アモルファス

低温脆性(ていおんぜいせい)

磁気変態


   
変態

熱処理における「相変化」は「変態」とよばれます。
鋼は鉄(Fe)と炭素(C)の合金を言いますが、鋼の温度を変化させた時に結晶構造や磁気的な性質などが大きく変わります。 これを「変態」といい、変態が起こる温度を「変態点」と言います。

変態点の詳細は、たとえば、平衡状態図などで示されています。その一つとして、「鉄(Fe)と炭素(C)の合金(=鋼や鋳物)」についての状態を、 2次元的にあらわした「鉄-炭素の2元平衡状態図」を用いて説明されている事が多いのですが、 もしも、この2元系の状態図に、 1つの合金元素(Cr・Mnなど)を加えて 表示しようとすると、座標軸が1つ増えて、3次元立体模型のようになり、 4元以上になると通常の表現は困難になってしまいます。 市販の鋼種には、いろいろな合金元素が入っていますので、市販鋼の詳細な平衡状態図を作ることは無理ですので存在しません。もしもそれがあったとしても、 熱処理に関する実用性はないでしょう。

現在の鋼(特に工具鋼などでは)は、温度と硬さの関係、焼戻し温度と機械的性質などが示されることで目的の性質を得るようになっていますし、 じん性や耐摩耗性の比較などで、鋼種を選ぶことができるようになっていますので、昭和年代後期までにしばしば取り上げられた、平衡状態図、恒温変態曲線、 連続冷却曲線などの図表の重要性は薄らいできています。

このように、過去にはもてはやされた状態図ですが、現在では、熱処理における説明用がメインで、実用性には乏しいものになってきていますが、 私自身が学生の時の金属学や鉄鋼材料の講義の初頭には、状態図の作り方や凝固過程の説明をいやというほど聞かされて、うんざりしていたことを覚えています。 それに加えて、(今でもその傾向があるのですが)恒温変態図(TTT)や連続冷却図(CCT)などをごちゃまぜにして教えられたものですから、 余計にわかりにくかったようです。<(_ _)>

入社してからも、『状態図』という言葉を口にすることが「熱処理を知っている人の代名詞」になっていた感があったようで、これを読んでおられる方の中にも、 「状態図」という言葉に、嫌な思いをした方も多かったのではありませんか? 製鋼、製鉄メーカー勤務や研究者ならともかく、 私の経験では、ほとんど役に立たないと思っています・・・(^○^)。


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結晶構造の話(bcc/fcc)
    体心立方晶(bcc) :(例)焼なまし後の常温の状態
      bccbcc
   
    面心立方晶(fcc):(例)焼入れ加熱のオーステナイト状態
      fccfcc
   
この図の見方ついて、簡単に説明します。

これらの図は、熱処理中に結晶構造が変わっていることを説明するために用いられますが、普通、鋼には、いろいろな元素が入っていますので、この話は、 「純粋な鉄」としての話から始めないといけません。

鋼は鉄と炭素の合金です。もしも、Feだけであれば、電子顕微鏡で見ると、規則正しく並んだ上記のような結晶構造が見えるはずですが、 炭素その他の不純物を含まない高純度の鉄は製造が困難ですし、また、それを作る必要性もあまりありませんが、そのうち、炭素が0.01%程度以下のものを、 イメージ的に純鉄と呼んでいます。
純鉄は、常温では、上の体心立方晶bccになっており、これを加熱していって、鉄炭素2元状態図に示されるように、 それが910℃程度以上の温度になると、上記の面心立方晶fccの結晶構造に変化します。この面心立方晶になったものを、ガンマ―鉄とかオーステナイトと呼ばれます。 それを徐々に徐冷していくと、910℃あたりの変態温度以下では、元の体心立方晶bcc に戻ります。これをアルファー鉄やフェライトとも呼ばれます。
このような「相変化」を、熱処理では「変態(へんたい)」と呼び、その温度を「変態点」と言います。

純鉄のような純粋な物質の結晶は、上記のような基本格子(セル)がずっと連なった状態になっているとされていますが、当然、通常の鋼では、 黒丸の原子が、Fe以外の原子に置換されていたり、侵入型といわれる小さな原子が間に紛れ込んだり、転位とよばれる、きっちりと並んでいない状態のなっているでしょう。
さらに、市販の鋼種になると、数種類の元素が含まれますし、不純物と言われる元素も含まれます。こうなると、それらが化合して合金になっているのか、混合状態なのか、 はたまた、均一なのか不均一なのか・・・などは実際の鋼では、よくわからない状態になっているといってもいいでしょう。
このように、わからないことがあるために、鋼としての未知の可能性が広がっているということかもしれません。

物質を分解していくと、「元素」に行きつきます。「元素記号」というように、1種類の元素が単体で成り立っている物質が、純物質ですね。
これは、物質を性質から見て最小限のものが元素ですよ・・・という概念的な分け方ですが、もしも鋼が、鉄Fe・炭素Cだけの合金であれば、 鋼は2つの元素が化合している「化合物」になっている・・・といえます。

次に「原子」から見る見方がありますね。原子は物質を構成する要素で、物体を分解していくと、「原子」に行きつき、鉄鋼も、プラスチックスも、 原子の集まりであって、その原子は、原子核と電子がある・・・と一般的に説明されます。つまり、物質の成分である元素は、原子の集合体ですよ・・・という感じでしょうか? 

現在の原子物理学では、その原子の中身をもっと細かく解明されているはご存じでしょうが、熱処理で説明される範囲では、 「ある元素(ここではFe)の原子が並んでいる様子を示している」ということでいいでしょう。それが、上で示された図ですね。(@_@)

ここで上の図を見ることにしましょう。上の右側の黒い丸を1つの鉄(Fe)の原子としますと、鉄原子の領域は、左図の球形は、 1つの原子が占領している「持ち分」を表している・・・という感じでしょう。
右図にある黒丸を結ぶ線が「格子」で、黒丸と格子で囲まれる面を格子面と言います。この「丸」の並び方は、X線解析によって調べることができますが、 もちろん、実際には、このような格子面や格子線はありませんが、理解しやすいようにしたものです。
・・・以上が、イントロ部分ですが、これに熱処理に関する内容を加えます。

炭素量が0.01%程度以上になれば、鉄と炭素の合金の「鋼」として性質「熱処理で硬くなる性質」がでてきます。その鋼を、ゆっくり冷やすと、 bccになりますが、ゆっくりと冷やすのではなく、fcc状態(すなわち、 焼入れするために加熱した状態)から急速に冷却すると、bccではないbct(体心正方晶)が晶出します。これが硬い「マルテンサイト」です・・・と説明されます。 もちろん、炭素量によってその晶出割合も変わるのですが、そうなると、「焼きが入った状態」になって、硬くなります。

これを熱処理的な温度変化的な要素を加えると、「鋼を加熱してA1またはA3変態点以上にある状態では、オーステナイト(ガンマ―鉄)という面心立方晶になっていて、 それが徐冷されると、先ほどの変態点を経て体心立方晶に変化しています。しかし、 オーステナイト状態にある鋼を焼入れ(急冷)することによってマルテンサイトという組織 (体心正方晶)に変わる・・・」というように説明になります。

この体心正方晶は、bccのように、格子長さが同じ(等軸晶)ではなく、1方向(たとえば、高さ方向)が長くなったものですが、 このbccまたはbctとfccを見比べると、明らかに面心立方格子fccのほうが、原子が 多くて詰まっているようですね。

ここがミソなんですが、セル(四角い区切り)1個に含まれる原子の数を見ると、bccでは「角にある1/8個を受け持っている原子」 x  「8か所の角」の1個と、 中心にある1個の「合計2個」であるのに対して、fccでは、「角にある1/8を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、 「面で1/2ずつ受け持っている原子」 x  「6か所の面」の3個で、 合計は4つになっていて、セルに占める原子の数が違うのです。

この、余ってきた原子はどうなるのでしょうか・・・ということを考えると、「体積が変化したり、硬さなどの性質が変化しそうだなぁ」とイメージできると、 少し、熱処理変化が見えてきそうな感じがしませんか? このように、無理やり詰め込まれたことでストレス(=硬さ)が高くなる・・・というように私自身が勝手にイメージしているのですが、 つまり、私自身の理解の仕方としては、fccとbccでは、各格子に占める元素の個数が、違っていますので、 fcc→bccになると、 なんとなく原子が余ってきて、大きさが決まった品物の中で 原子を詰め込もうとするので、体積が増えるか、 そうでなければ、満員電車に人が押し込まれたように、 ぎゅうぎゅうになり、押し合いますので、鋼の場合は硬くなる・・・というように考えています。(これは、まったく、自分の覚え方です)

このあたりの話は、よく分からない内容を混ぜ返している感じがしますが、よくわからないことが、今後に、新しい鋼種を生み出す原動力になっているともいえます。 過去の錬金術もそうですが、「未知の領域」があるので、熱処理にも、新しい可能性が残っているといえます。・・・ということですが、学者じゃないので、 わからないことを自分なりに理解していこうと思って書いてみましたが、・・・このページ全体が、専門的でないイメージ的な内容になってしまってすみません。(*^_^*)


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結晶構造の変化

熱処理は、これらの結晶構造の変化を利用しています。
ある鋼の温度を上げたり下げたりすると、変態点を境にして結晶構造の変化に伴って、何らかの性質が変わります。
例えば、900℃ぐらいの高温から徐冷されて常温になった炭素鋼を、再度、ゆっくりと温度を上昇させる場合の結晶構造変化を説明しますと、900℃程度では、 面心立方のオーステナイト状態ですが、徐冷すると、700℃付近で鋼の結晶の原子配列が「体心立方格子」状になります。そして、それを再度、 常温から徐々に温度を上げていって730℃前後の温度になると 変態して「体心立方 → 面心立方」になり、完全に面心立方晶の状態のものを、ごくゆっくり冷却すると「面心立方 → 体心立方」に変態します。

熱処理の「完全焼なまし」という操作が、この変化を利用しており、「ゆっくり」というのがポイントで、これによって、鋼が加工しやすく「軟らかく」なります。

余談ですが、変態点とは相変化をする温度のことですが、通常の作業(たとえば「焼なまし」作業)においては、平衡状態図にあるような、 温度変化を極小にした(平衡)状態で 熱処理作業をすることはほとんどないので、一般的には、温度勾配(温度上昇下降のスピード)があって、 平衡状態図に書かれた変態点はもちろん変化します。 温度の上昇速度が速いと高温側に、下降速度が早ければ、低温側に移動します。

冷却の際に、徐々に速度が速くなるにつれて変態点も下降していき、さらに冷却時の速度がかなり早くなって、ある速度以上のスピードになると、 「面心立方 → 体心立方」にならないで、マルテンサイトと呼ばれる、全く違った性質を持つ結晶構造(体心正方晶)に変わります。ある速度について、 マルテンサイトができる速さの冷却速度を、臨界冷却速度と言います。

もちろん、これは、形状(質量)や冷却剤、鋼種(成分)などによって複雑に異なりますが、熱処理でいう「焼入れ」は、この変態を利用して機械的性質を変化させるということです。


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アモルファス

このように、鋼は金属で、結晶構造を持っています。これに対して、ガラスなどは結晶構造がなく、非晶質といわれます。近年、アモルファスといわれる言葉を聞く機会が増えていますが、 アモルファス=非晶質です。
金属などの結晶質は、結晶が並んでいるために、外力によって変形する際に、特定の面でずれるのですが、非晶質では、それらのすべり面が定まらないために、 結晶構造のものとは違った性質が出てくるというものがあります。最近の研究では、アモルファス鉄合金で、非常に機械的性質が優れたものが見つかっています。 その他、結晶構造を粉砕してナノ化することで、非常に硬くなったり、展伸性が得られたりします。ここでは詳しくは触れませんが、面白い分野でしょう。


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低温脆性(ていおんぜいせい)

低温シャルピー試験例一般的に、鋼は、低温になるともろくなります。 この性質を、低温脆性(ていおんぜいせい)といいます。
この測定や評価方法は様々ですが、シャルピー衝撃値の変化やその時の破面の状態を見るのが比較的簡単です。
この図は、0.2%Cの軟鋼におけるシャルピー試験温度とEの衝撃値の値、φが脆性破面率などが示されていますが、衝撃試験をする温度(試験片の温度)を下げていくと、 衝撃値が低くなっていき、脆性破面率が上がっていきます。つまり、破面が延性破面から脆性破面に変わっていって、脆くなります。
(この項の図は、すべて、鉄鋼の熱処理・日本鉄鋼協会編より引用)

その指標として遷移温度(せんいおんど)が用いられます。ここでいえば、ここで言えば、脆性破面率が50%になる温度や衝撃値が1/2になる温度で定義していますが、 この温度が低いほうが低温に強いということになります。

遷移温度に及ぼす合金元素この図は、 遷移温度に影響する合金元素とその割合を示してものですが、リンP、炭素Cなどはそれを上げるので悪影響があり、マンガンMn、ニッケルNiなどは、 それを下げるのでいいということで、低温容器に用いられるステンレス鋼などでは、それらを含めて成分などの影響が研究されています。
しかし、硬さや強度が必要な工具鋼などでは、C量が高いので、低温になれば衝撃値が低下するという影響は避けられませんが、残念ながら、工具鋼などの、 一般的に使用される鋼についての低温脆性に関連するデータはほとんどありません。

当社にも低温脆性に関する試験数値がほとんどありませんが、0.55%Cの耐衝撃工具鋼系の鋼種を25℃程度と-20℃でシャルピー値を比較試験したところ、 シャルピー値が1/5以下に低下しているのを確認したことがあります。上の0.2%鋼の例でも、40℃程度から脆化が始まっていますので、多かれ少なかれ、 使用する環境温度が低下すれば、じん性値が低下すると思っていて間違いないでしょう。

建築用の鋼材などは炭素量が0.1%以下で、その他の合金成分から見ても、国内の気温で影響を受けることはないと思いますが、通常の工具や金型、 金型部品などでは、炭素量が0.4%以上の鋼が使われることが多いので、ほとんどが0℃などの低温になってくると、若干でも影響があると考えておく必要があります。
低温に対する対応鋼種を考える場合は、上記の合金量から比較推定するか、または、工具鋼などで衝撃試験をする場合には、25℃程度の「常温」での試験が基準になっていますので、 常温での衝撃値が高いほうが低温には強い・・・と考えて材料等を決めることになります。
しかし、低温で使用しなければいけない場合には、温度につれてじん性値が低下していきますので、危険防止を考えるうえでは、事前に確認試験をしておくのがいいでしょう。

日本国内では、冬季には0℃以下の低温環境で作業されることもありますので、(データはありませんが)使用環境下で衝撃値の減少が始まっている鋼も多いと考えられます。 とくに、寒い朝や寒冷地で使う工具などは、その影響を受けて折れやすくなっているということを考えて、 常温以下では工具は「もろくなっている・・・」 という意識だけは持っておくのがいいと思います。

これに関係している例としては、冷凍庫の中で作業する包丁が折れたという例や、鍛造型などを朝一番に使用するときに割れたという例などがあります。
鍛造型など、特に大きな力が加わる熱間・温間用金型などは、低温における特性低下によって、特に、冬季の寒冷時や早朝の仕事始めに金型の割れが発生することがあります。 これに対しては、金型を予熱をしてから使用するという対策がとられるのですが、少し金型の温度を上げるだけでも、工具の持つ衝撃値が回復しますので、 温では何もなかったものが、低温になれば、折れたり破壊しやすくなるもの・・・ということを頭に入れておくのは大切なことでしょう。

この低温脆性に対する対策は厄介ですが、品物の断面を大きくして、余裕を持った形状にすることなども併せて考えないといけません。


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磁気変態

鉄-炭素2元系状態図には、780℃付近と200℃付近に、磁気変態温度が2つ示されています。
780℃付近がキューリー温度といわれる磁気変態点(A2:2は小さく書く)で、Fe(鉄)を加熱していくと、強磁性から常磁性になる温度です。また、 200℃付近にある磁気変態点(A0:0は小さく書く)はセメンタイトの磁気変態点で、やはり、加熱する過程で、強磁性から常磁性に変化する温度です。
着磁をして困ることがあります。着磁は、永久磁石を近づけるだけでなく、誘導磁界などの影響で、塑性加工中などにも着磁をしてしまって、 その除去に困った経験を持っている方もおられるかもしれません。私が経験したことですが、オーステナイト系ステンレス鋼が着磁してしまって、 どうにもならないといったことがありました。 脱磁をするには、一般的には、交番磁界をかける方法がしばしば利用されますが、そのような、電気的な方法では除去できずに、結局、 再度、溶体化処理(オーステナイト化温度まで上げて、急冷することで耐食性を向上させtる方法)をやり直す必要があったこともあります。 これは、780℃以上に加熱して、磁気変態点を超える処理をすることですね。

もう一方の例ですが、セメンタイトは鉄Feと炭素の化合物(Fe3C)で、完全焼入れでない場合に、 部分的ですが、しばしば生じるものですが、焼入れ冷却途中の品物をマグネットリフマー(リフティングマグネット)で吊って移動させる時、 品物の温度が200℃を超えていると、セメンタイトの時期変態の影響で着磁力が落ちていることを経験することがあります。
鋼種や熱処理方法によっては、セメンタイトの量は少ないのですが、その部分の磁気が弱まるだけで、品物が磁石で吊りあげられなくなることがあります。 (磁石が温度の影響を受けて着磁力が低下していることもありますが、こういうことに絡めて、このことを覚えておくことも、何かの役に立つかもしれません)

・・・ ということで、熱処理知識としては、こんな程度に記憶する程度でいいのではないでしょうか。

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