工具材料を選ぶ時に・・・

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JIS規格票を見てもわかりにくい

鋼材はどこで入手する?

高級材に向かう傾向

工具に必要な要素

刃物(カスタムナイフ)について


   

JIS規格票を見てもわかりにくい

個々のJIS規格は規格票として販売されていますが、通常は、書店などで市販されているハンドブックに関係する鋼種がまとめられています。そのうち、鉄鋼関係は、現在「鉄鋼」編で2冊になっており、熱処理関係は「熱処理」にハンドブックとしてまとめられています。その鉄鋼のJISハンドブックでは用途別に鋼種が分類されており、刃物や工具の用途には、工具鋼鋼材が対応します。JISでの工具鋼分野は、大きく、炭素工具鋼、合金工具鋼、 高速度工具鋼に分類されています。しかしここで、どんな材料をつかって目的の工具や機械部品を作ったらいいのかを考えるときには、残念ながら、鉄鋼のJIS規格を読んでも、手の付けようがないのが実情でしょう。それなら、どうしたらいいのでしょうか?

材料を選ぶ場合に重要な点は、他の記事でも説明していますが、①材料に要求される特性・・・例えば、必要な硬さや硬化深度が得られるだろうか?などのほかに、 ②必要なサイズが販売されているかどうか・・・が重要になります。
現在では、ともかく、WEB記事を見ればわかるようになっているかもしれませんが、目的の情報にたどり着くには、ある程度の知識を持って接するほうがいいように思いますので、 そのあたりについて見ていきましょう。

WEBでは、様々な記事が混在しています。1つの国内メーカーの取扱鋼種をみても、様々な鋼種が製造され、販売されているかのように見えてしまいます。さらに、 同じ鋼種に対して、様々な記事があります。
鋼種についても、国内外のメーカーの鋼種もありますし、その上に、新しい鋼種が次々生まれたり、需要がないために製造されていない鋼種もありますので、知識がないと、 つかみどころがないので、苦労します。

現実的には、当社の熱処理品を見ますと、千差万別の熱処理依頼品があるのではなく、特定の鋼種に限られています。そして、その鋼種は、「**メーカーの++」というように決まっており、そう多くはありません。
このため、WEBからこれを知るためには、時間を追って、その鋼種を追いかける必要があるようです。

工具鋼は、国内外の鋼材メーカーで製造されていますが、すべてのJIS鋼種を製造しているのではなく、各社で特徴を生かしたJIS鋼種にはない独自鋼種も作られていますし、 JIS鋼種であっても、自社の特徴を付加した「自社名称を付けた鋼種」として販売されているのが一般的です。下記は、冷間工具鋼の例です。

各社工具鋼一覧

もちろん、この一覧表にあっても、流通している鋼材のサイズは限定的ですし、丸材と角材でも在庫が異なっていますので、 ほしい状態の在庫がない場合もあるということを常に意識しておいてください。

ちなみに、ここにある工具鋼の汎用鋼であるSKD11(JIS名)をメーカー別に見ると、SKD11、QC11、SLD、DC11、KD11、K105・・・というように各社が独自鋼種名で製造しています。
JISの考え方からいえば、これらのいずれもが、JISに定めた内容を満たしており、さらに、その規格以上に厳格な仕様で製造している鋼材といえます。
次に、どのようなサイズも製造して市販されているのかといえば、 そうではありません。また、製造していても、特定の需要先向け(これを「ひも付き」と言いますが)だけで、一般には販売されていない場合もあるということを知っておく必要があります。
このように、1つの鋼種をとっても、とにかく多様で、わかりにくいので、まず最初に、購入するときも、熱処理依頼をするときも、JIS鋼種名ではなく、 「メーカー名」で呼称しておくのが間違いが起きなくていいということを知っておいてください。


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鋼材はどこで入手する?

鋼材メーカーが製造した鋼材は、ほとんどが、特定の商社や「鋼材屋さん」と呼ばれている販売店などを通じた流通経路で市場に出ます。販売店の多くは、 メーカー系列になっており、「**鋼」「**鋼材」「**特殊鋼」といった社名の「鋼材屋さん」が扱っているのですが、さらに、扱い量によって、 「一次問屋」「2次問屋」・・・というように区分けされています。

こういう流通の仕組みですので、メーカーでの製造サイズが限定されているうえに、鋼材屋さんの在庫品となると、さらにサイズが限定されることになります。 もちろん、他社品を取り寄せたり、切り売りしている販売店も多いのですが、そうなると、鋼材単価(一般的には1kg当たりの単価(キロ単価)をいいます)は上昇することは避けられません。
一般的な鋼材単価の動向など、一部は日本工業新聞などに掲載されていますが、動向や価格の概略がわかる程度で、購入品の詳細を知る上では、あまり役には立たないでしょう。

部品を設計製作する場合には、 価格や単価効率の良い品物の寸法を設計することが大切なのですが、残念ながら、鋼材メーカーも鋼材屋さんも、 販売効率の良いように在庫を持ちますし、さらに、その内容も常に変動しますので、在庫状況がタイムリーにわかる状況ではなく、単発に購入する場合は、 面倒でも、鋼材屋さんに個々に確認するのが確実です。といっても、その手間も大変ですし、慣れや知識がないと、難しいことです。

このような販売は「店売り」と呼ばれますが、それに対して、当社の製品などの鋼材の中には、契約して大量に発注する、「ひも付き」と言われる流通形態があります。 いずれにしても、メーカーで系列化された流通の仕組みは昔から変わっていません。
このために、量にもよるのですが、少量の鋼材を購入する場合は、たとえ高価であっても、まずはWEBを利用するのが手っ取り早いかもしれません。

小口品では、ネットで小口販売をしている鋼材屋さんが多くなってきています。そして、これらの販売店では、その熱処理までの面倒を見ているケースも多いので、 「小口」分野では、ネットと宅配を利用して購入するケースが増えていくでしょう。
しかし、WEBによって、購入しやすい仕組みになっていくかどうかは、各社各様の思惑があって、今後も、あまり変わっていかない感じもします。
後工程の「熱処理」についても 、近年は、熱処理設備の専門化や大型化もあって、小口の熱処理を嫌う熱処理屋さんも多くなっている傾向もありますので、 鋼材を購入する際には、それについても事前に考えておく必要があります。
もう一つ大切なことですが、このHPの随所に書いていますが、材料取りの方向性や材料履歴を知ることが大切だということを記憶ください。(たとえば、こちら
当社でも、無料で熱処理・材料の相談をお受けしています。(電話ではなく、メールでお願いします)


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高級材に向かう傾向

材料の特性比較の評価をしようとして、メーカーのカタログやユーザーのコメントなどから、○×式で鋼種を決めようとすると、 結局は、高級鋼に行きついてしまたことはありませんか?

精密金型などでは、加工度(加工賃)が高いので、金型の全体価格に占める鋼材価格の割合からすれば、高級鋼材を使うメリットも出てくるのでしょうが、 (何度も書いていますが)いい材料は高価になるのは仕方がないとしても、高価な材料は「良い」とは限りません。材料を評価する要素は非常に項目が多いうえに、 その評価方法もたくさんありますので、疑うわけではありませんが、高級材を買わされる方程式にはめ込まれているところもないとも限りません。

鋼材が高価になる要素としては、①合金元素を加えて、熱処理性質や機械的性質を向上させる ②特殊溶解などでじん性や均質性を高める ③歩留まりが低い、仕上がり形状が特殊などコストパフォーマンス性 ・・・ などがあげられます。

一般的に言われる合金元素の効能としては、焼入れ性の向上、炭化物による耐摩耗性の向上、素地の強化などを目的などがありますが、硬い炭化物を作るW・Cr・Moなどは比較的高融点のために、その量が多くなると、相対的に焼入れ温度が上がるために、熱処理費用も増加すると問題もあります。
材料を選定するときに考えなければならない要素を網羅するのは難しく、売る立場と買う立場では、要素に対する比重も変わりますので、定式もありませんが、考える要素の一部を示します。


工具に必要な要素

ここでは一般的用途で使用されることの多い「冷間機械工具」や常温で使う「刃物」を想定して材料選びのポイントについて話をすすめます。

機械部品などを製作する場合には、コストパフォーマンスが重要ですが、金型や工具(例えば刃物など)になると、性能を重視されて、価格をあまり考えない場合も出てきます。 しかし、重ねていいますが「良いものは高価」ですが、「高価なものはよい」とは限らないことを意識しておくことは大切でしょう。

一般的に、工具に共通した望ましい性質を上げると、
 ・工具として、充分な硬さがある。(圧縮強さ・引張強さ・軟化抵抗が大きい)
 ・折れたり割れたりしない。(耐衝撃性・じん性・疲労強度が大きい)
 ・長持ちする。(耐摩耗性・耐焼き付き性・耐錆び性が高い)
 ・加工しやすく、熱処理も容易(被削性・被研削性・快削性・放電加工性・溶接性に優れる)
 ・市場性が高く、サイズが豊富で、入手しやすく、価格も手頃
などがあげられます。

( )は、材料特性を示していますが、残念ながら、これらには、相反する性質のものがあるので、いくらお金を積んでも、 これらの特性をすべて満たすものは見つからないと思いますので、まず、
 ①どのくらいの硬さが 必要なのか  
 ②硬さが必要な深度ははどうなのか 
ということに当りをつけて選択していくことになります。
つまり、得られる硬さが基本で、それに対して材料を絞り込んでから熱処理特性を見ていく手順です。

別の観点から材料を選択する考え方もあります。
 ・少量生産用か長時間かつ大量加工用か
 ・金型が大きいか小さいか
 ・最高品質を求めるのか、オールマイティーなものか、それとも当座しのぎでいいのか?
 ・材料費用をかけていいのか、安く上げたいのか・・・・

しかし、これは、経験や幅広い知識をもとにした判断が必要ですので、決定に導くセオリーはないといってもいいぐらいに複雑な問題があるので、ここでは、 前者の「硬さ」から考える方法を説明しましょう。


①工具に必要な硬さ
工具の一般的な硬さ左表は一般的な使われている工具類の硬さ範囲を示しています。

これは、かなりの幅があり、漠然としていて参考にならないと思われるかもしれませんが、 何かの基準がないと、先に進みませんので、まず、一つの基本硬さ値と思っていただくといいでしょう。これを基本に、メーカーカタログから、この硬さが出る鋼種を決めていきます。
目標とする硬さは、この常用硬さ値に実績や情報を含めて決めていきます。
1発で硬さを決めれれば問題はありませんが、「すべてに優れる条件はない・・・」ということは、適当なところで割り切らないといけないことになります。

例えば、割れたり折れたりするのは危険なことですので、高いところから攻めることは危険だということになります。
既知の目標硬さがなければ、左表の常用硬さの低めを基準に、経験によって徐々に硬さを上げていくという、まことしやかな方法によらねばならないかもしれません。

しばしば、カスタムナイフの硬さについて質問を受けたときに、基本的には、左表にあるように、58-60HRCを基準にして説明することにしています。そして、複雑な用途ではなく、 鋼種が決まっておれば、焼戻しマルテンサイトになって衝撃値が安定する焼戻しをした時に出る硬さを推奨するようにしています。

しかし、これは一つの考え方で、もっといい状態があるかもしれませんが、それには、何らかの情報がないと決められません。「ピンピンに『硬く』」とか、 「曲げてもおれない状態にしたい」という表現をされることがありますが、そのような客観的な表現では、何をすればいいのかわかりませんので、まず、数値化することが重要でしょう。
つぎに、自分で熱処理をするか、熱処理屋さんなどに委託するかで、対象となる鋼種に制約が加わります。

自分で熱処理をするとなると、熱処理のしやすさが重要でしょう。焼入れ温度が低くて、温度の変動による硬さの影響の少ない鋼種が扱いやすいので、 炭素工具鋼や低合金工具鋼がいいことになります。
しかし、近年では、工具に用いられる鋼種は、高合金化や高級鋼化の傾向があることと、熱処理は専門家に依頼することが多くなっているので、ここでは、 汎用的な比較的に高合金の工具鋼について説明することにします。

まず、熱処理によって得られる最高硬さは化学成分における「炭素量」でおおよその見当が付きます。近年では、鋼材カタログを見ると「焼入れ硬さ」 「熱処理硬さ」 などが提示されていますので、それを参考にするのがいいでしょう。


日立金属のカタログ例次に、左は日立金属(株)の総合カタログの例ですが、
①加工のやりやすさを示す「焼なまし硬さ」 
②最高硬さにするための焼入れ焼戻し温度 
③その時に得られる硬さ
・・・が表示されています。

関連するリンクの記事で詳細に説明されていますが、注意しないといけない点は、この標準熱処理条件は、実際の品物について行う熱処理とは違っています。 これは、φ15×20程度の小さい試験片で、ここにある条件で熱処理すると、③以上の硬さになります・・・ということを示しているだけで、実際の品物では、 大きさの影響や実際に使う硬さによって、焼戻し温度(または、まれには焼入れ温度)を調節して目標の硬さにする必要があります。これらについては、 焼入れの項目などで、説明していますので、参考にして下さい。


②じん性と耐摩耗性

鋼材の機械的性質を評価するときに、「じん性と耐摩耗性」という表現がよく使われます。 (こちらでも説明しています)

耐摩耗性は、摩耗のしにくさを言い、工具寿命などに関係しますが、硬さと耐摩耗性には相関があり、硬さが上がると、耐摩耗性は高くなります。
また、鋼材成分のC、Cr、Moなどの炭化物形成元素が多いと、耐摩耗性が高くなります。しかし、硬さとじん性は相反します。硬さが高くなると、じん性は低下します。

つまり、その両方ともに優れた鋼種はありませんので、どこかで妥協できるところを見つける必要があります。
また、硬さを調節することで、耐摩耗性やじん性は変化しますので、単純に最良の鋼種を決めることは難しいと言えますが、工具寿命を伸ばしたい時に、 工具がチッピングなどの欠けがなければ硬さを上げ、それ以上に寿命を延ばしたければ、同じん性レベルにおける高耐摩耗鋼種に変えていくことになります。 簡単な表現ですが、これも、単純なものではありません。

日立金属:硬さと靱性値 諸特性の概要表

鋼種の持つ特性を評価する表や試験結果には、各鋼材メーカーから、いろいろなものが提供されています。
少し難しいようですが、これらを有効に利用して、意図する鋼種を見つけていきます。 たとえば、上左図は、日立金属(株)の鋼種における硬さとじん性値を表したものですが、 全般的に、硬さが上がるとじん性値は低下する・・・という、比較的に客観的なデータと見ていいでしょう。

ここには、同じ硬さで比較して、上位にある鋼種がいいといえることは確かですが、「高価」「熱処理が難しい」「入手できない」「耐摩耗性は劣る」 などの隠された問題があることを意識しなければなりません。

つぎに、上右図は、差支えないように、メーカー鋼種をJIS鋼種に置きかえて特性評価を示したものですが、しばしば、メーカーから、 同じような趣旨の一覧表などを目にすることがあります。 ○×式で鋼材の優劣を見ていくと、結局、「安価な材料は特性が劣るので、 高価な材料がいいですよ」・・・と言っている印象を受けますし、たとえば、ここに、「価格や市場性」の項目が入れば、また、見方も変わってくるはずでしょう。 この表では、プラスの特性だけを見る・・・ということで選定すればいいでしょう。

これらは、ある意味でいえば一般的な考え方ではありますが、もしも実際に、この特性だけを見て、単純に鋼種を決めるのであれば、 世の中にある様々な鋼種は必要がなくなってしまいますね。といっても、これを見極めていく方法は、このHP全般で説明してはいますが、 簡単なことではありませんし、時間をかけて経験していくしか道がない領域かもしれません。


③被削性と被研削性

作りやすさ、加工のしやすさにも配慮する必要があります。被削性は、機械加工のしやすさ、被研削性は、砥石による研磨のしやすさを指しますが、 焼なまし硬さが低いこと、顕微鏡組織で炭化物量が少ないで、およその判断をします。それらが示されていない場合も多いので、一般的には、 高価な鋼種ほど被削性や被研削性はよくないと考えておいていいかもしれません。


④市場性や販売サイズ

先にも示したように、思った材質が販売されていなかったり、素材のサイズに適当なものがない場合は非常に多いでしょう。大きめのものから削り出せばいいのですが不経済です。 それを事前に考えておかないといけません。WEBでは、寸法が示されているものが多いですが、提示金額が高めなのも否めないでしょう。


⑤法律(特に銃刀法)

一般機械工具については特に法令や安全性については問題になることはほとんど考えなくてもいいのですが、刃物類については注意していただかないといけません。
5.5cm以上の剣(両刃)や15cm以上の刃渡りの刀等は、所持できないことを銃刀法で定められていますし、それ以下のものに ついても、 正当な理由なしに隠して携帯することを軽犯罪法が規制しています。
当社でも、これらに対しては、法令に抵触するものの熱処理は引き受けていません。このために、これらの法令を順守して刃物類を製作しないといけません。


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刃物(カスタムナイフ)について

お問い合わせの多い、カスタムナイフ用材料について、簡単に紹介します。
マニアの方は、それぞれ思い入れや経験がありますし、ナイフを作りこむ過程で、いろいろな工夫もされていますので、ここの記事は、一つの考え方としてお読みください。

刃物鋼の例

WEBの記事を見ると、いろいろな材質が使われているのがわかります。
ちなみに、グーグルで「刃物鋼」をWEB検索しますと、ATS-34・CRMO-7・CV-134・ZDP189・カウリX・440C・青紙・白紙・420J2・ VG10・大同1K・銀紙5・・・・など、多くの鋼種名が見られます。しかし、これらすべてが現状で販売されているとは限りませんし、このほかにも、独自のネーミングと特殊な流通で販売されている鋼種もあって、 わからないことも多いようですが、当社で近年に熱処理したナイフ類の鋼種の取り扱い例を見ますと、上の、ATS-34・SKD11・SKH51・SUS440C(銀紙5)などが多いようです。
結局、薄い板材がある鋼種が使いやすいので、その条件だけで、かなり鋼種が限定されていくでしょう。
次に、板材で流通している鋼種について、簡単に説明します。


①炭素工具鋼(SK)・特殊合金鋼(SKS)

焼入れ温度が800℃台と、高合金鋼よりも低く、ガスバーナーを使って自宅で熱処理ができます。逆に、自動化された熱処理屋さんの設備では、 小さく薄い品物を取り扱うのが難しい場合もあって、敬遠される場合もあるかもしれません。

高合金系の材料に比べて、これらは機械加工や仕上げがやりやすいために使いやすく、切れ味が非常に優れていることを評価する人も多いようです。 日立金属からは、「刃物用鋼」として、白紙、黄紙、青紙・・・などのシリーズが販売されています。


②SKD11 および相当品

入手しやすく、熱処理的にも安定しており、硬さも62HRC程度は難なく出て耐摩耗性があり、さらに、じん性も比較的高という、使いやすい良い材料ですが、 成分系が1.5%C-12%Crのため、組織的に巨大炭化物が多く、それが刃先に出ると、光沢や切れ味の面を懸念する方もおられます 。しかしこれも、 顕微鏡レベルの話ですので、目で見てわかるような状態ではなく、特に切れ味を求めない限り、通常の刃物用途では、気にしなくてもいいでしょう。

日立金属のSLD、大同特殊製鋼のDC11など、各社でSKD11の相当品が製造されていて、それぞれメーカーの特徴があります。鋼種名については、通常は、JIS名で呼ぶの ではなく、メーカー名で鋼種を呼ぶ習慣をつけたほうがよいでしょう。

SKD11の改良品として、SKD11よりも靭性が高い、大同特殊鋼のDC53や山陽特殊製鋼のQCM8なども流通しています。これは、8%Cr系の冷間ダイス鋼に分類されますが、 大きな炭化物が出来ないように成分調整されており、使いやすい材料ですので、これらも、うまく使用するのもよいでしょう。


③ステンレス系(SUS)

SUS系はサビにくいことが特徴ですので、使用する人も多くなっています。ステンレス鋼のうち、焼入れによって硬さの入る「マルテンサイト系ステンレス鋼」が主な対象になります。
JISではSUS420J2、SUS440Cなどが、その他では、クロモ7、ATS34や、外国製の材料なども熱処理を依頼されることもあります。

少し専門的な話になりますが、ステンレス系の材料は、Mf点が常温近くにあるものが多く、夏場などでは、冬に比べて室温が高いので、硬さが出にくくなります。 たとえば、SUS440Cの通常の焼入れでは 58HRC程度の最高硬さしか出ませんので、それ以上の硬さがほしい場合にはサブゼロ処理をします。しかし、 熱処理費用が高くつきますので、このために、硬さが出やすいように改良した刃物用鋼 ATS-34(日立金属)の人気が高いようです。ATS-34は  1070℃程度の比較的高温で焼入れして、サブゼロ処理をしないでも61HRC程度の硬さが出ますし、その焼入れ条件では 、刃先が劣化することはありません。


④高速度工具鋼(ハイス)

英語の High Speed Steel から、「ハイス」と呼ばれます。
鋼種も多いのですが、薄い板材が比較的多く製造されていることもあって、ハイスを使用してナイフを製作する人も多いようです 。

ハイスは全般的に高価ですが、そのうちでも入手しやすく、比較的安価で機械加工性がよく、硬さも充分に出るSKH51を使用されることが多いようです。 SKD11などの高クロム系の材料に比較して、炭化物径も小さいので、じん性も高く、表面の仕上がりもよいことを評価される方も多いようです。

ハイスには、耐摩耗性が売り物のV(バナジューム)系とよばれるものがありますが、これらの、高耐摩耗性の鋼種の中には、硬くて機械加工がしにくく、 研磨がやりにくく、研磨焼けが発生しやすい場合のもあるので、注意する必要があります。

高速度鋼の熱処理は、真空炉で処理されることが多いのですが、当社では、刃先を重視するナイフ類はソルトバスにより個々に焼入れするようにしています。 また、比較的低温の焼入れ温度にして、硬さもあまり高くしないようにして、「じん性の向上」を重視することをお勧めしています。
ソルトバスへのリンク

昭和50年代までに「アンダーハードニング」といって、ハイスを低温焼入れ、 低温焼戻しで非常に高い衝撃値を得る熱処理方法がありましたが、 近年は当社でも全く行われていません。この理由は定かではありませんが、高靱性のマトリックスハイスと言われ る鋼種が開発されて、それに代わっていったのかもしれません。
マトリックスハイスは、58-62HRC程度の硬さで用途向けに、共晶炭化物を押さえてマトリックス強度を高めて、じん性や高温強度が高くなるように開発されたものです。

近年では、耐摩耗性、じん性を兼ね備えた「粉末ハイス」「粉末ダイス鋼」と言われる高級鋼も各種販売されています。一度、鋼を粉末にして鋼材を作りますので、通常の製鋼では製造できない成分のものもあり、品質レベルは高いのですが、非常に高価です。(粉末ハイスに対して、従来の正攻法で作られるハイスを、「溶製ハイス」と呼ぶ場合もあります)
ただ、いずれの鋼種でも、ハイスは高価ですし長短所がありますので、メーカーのうたい文句に惑わされないようにして、鋼材屋さんなどの、材料に詳しい人に相談するなどで、使いやすい鋼材を選定するようにするといいでしょう。
鋼材屋さんには、特殊鋼販売士という資格を持った方がおられますので、相談されるといいでしょう。

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