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焼入れとは   マルテンサイト 

焼入れ操作   焼入れ温度   変態温度   焼入れ保持時間   焼入れ時の冷却 

炭素量と最高硬さの関係    焼入れ性を増す合金元素    焼入れ性

引張強さと硬さ   不完全焼入れ   焼入性と有芯焼入れ

質量効果と臨界直径    機械構造用鋼の熱処理  調質  焼ならし  JIS硬さで・・・?

熱処理用試験片   工具鋼などの高合金鋼の焼入について

市販鋼種の焼入れ温度や焼戻し硬さについて  鋼種を考える場合は・・・  

焼入れ硬さが出にくい鋼種の対応    熱処理の可能性や未知の領域   

焼入れによる寸法変化(変寸)   熱処理のシミュレーション

  

   

焼入れとは

鋼を変態点以上の温度に保持した後に「急冷」する操作を「焼入れ」と言います。(焼入れ操作の様子は、こちらの動画を参考に)
焼入れした際の硬化の程度は、主に、鋼に含まれる炭素量(C%)によります。【こちら
また、通常の鋼は、炭素以外に様々な合金元素【こちら】によって、最高硬さや硬化深さが変わります。
焼入れしたときの最高硬さが高いことや、その硬さが内部まで及ぶ鋼種を「焼入れ性の良い鋼種」と言います。焼入れ性の良い鋼種は、油冷したり、空気などの気体で冷却しても、充分に硬化させることができますが、焼入れ性の良くない鋼種は、水などで急冷して硬化させる必要があります。
また、品物が大きいと、大きさにつれて焼入れ時の冷却速度が低下します。これを「質量効果」と言います。

「焼入れ」は、英語ではハードニングHardening・クエンチハードニングQuench-hardeningと称されますので、熱処理業界の人は、 「クエンチ」や「クエンチング」などと言う人もいますし、JISの加工記号では「HQ」と表示しますので、「エッチ」「マルエッチ」などと称されます。
熱処理用語には、この「焼入れ」のほかに、よく似た言葉が出てきます。「焼き戻し」「焼なまし」「焼ならし」などですが、混同しやすい用語ですので、以下に簡単に示します。

1)焼入れ : 鋼を硬くする操作。(加工記号はHQ:クエンチ)
2)焼戻し : 焼入れした後で、硬さを下げたり、強靭性を増す操作。(同 HT:テンパー)
3)焼なまし :鋼をやわらかくしたり、応力を除去する操作。(同 HA:アニーリング)
4)焼ならし : 組織や硬さを均一にする操作。(同 HNR:ノーマライジング)
この違いだけをイメージください。
これらの熱処理をすると、硬さだけでなく、鋼の組織、機械的性質、化学的性質、その他が変わります。


マルテンサイト

鋼は、鉄と炭素の合金で、おおむね、0.1%以上の炭素を含有する鋼は焼入れ温度に加熱(赤熱)して急冷することにより硬化します。急冷することによって、非常に硬いマルテンサイトという組織になるためです。

一般的な熱処理解説書などでは、「焼入れとは、鋼を変態点以上に加熱してオーステナイト組織 (面心立方格子)の状態から急冷されることによってマルテンサイト組織 (体心正方格子)に変化させることで硬化します・・・」 などのように説明されています。

焼入れ冷却中は、このマルテンサイトが生成する温度まで急速に冷却することによって、他の、柔らかい組織が出ないように、早く冷やすことが求められます。柔らかい組織には、パーライト、ソルバイトなどの、マルテンサイトと違った組織があります。
この状態は、顕微鏡組織(こちら)観察や硬さ測定などで確認することができます。
焼入れ中に、マルテンサイトが生じ始める温度をMs(エムエス)点、マルテンサイト変態が完了する温度をHf(エムエフ)点と言います。 (こちらにも、Ms・Mf点の関連記事があります)

マルテンサイト変態は、温度の降下につれて進行するために、Ms点に達すれば、ゆっくり冷やしても変態が進行します。このことから、一般的には、焼入れ操作は、「焼入れ冷却中に、 パーライトなどが析出しないように、Ms点までを速やかに冷却して、 それ以下の温度域では、品物全体を均一に冷却する・・・」というように操作する・・・と説明されます。

冷却過程でパーライトなどの柔らかい組織が析出すると、十分な硬さが得られません。また、Ms点以下では、急激な温度変化は、各部の温度差から、 焼割れや変形の原因になる・・・という理由でしょう。

しかし、MsやMfが明示されていない鋼種も多く、合金成分量によって変わりますので、その温度も低炭素鋼では500℃に近いものから、高合金鋼では、 150℃程度のものもあって、一様ではありません。一般的には、C・Mn・Crなどが多くなるとMs点が下がり、それにつれてMf点が下がるので、高炭素高合金のものは、 Mf点が常温近くのものも多いことから、焼入れ硬さが室温に大きく左右される場合も出てきます。

Ms・Mfについては、あまり深く理解されていない場合も多いのですが、複数鋼種の品物を混載して熱処理する場合などでは、 それを把握しているか否かによって、 製品品質に影響が出るポイントといえます。
一つの例ですが、汎用鋼のSKD11はMs200℃程度、Mf40℃程度とされています。夏季には作業場の温度が50℃近くになるところもありますので、焼入れしても、 完全に変態しない(十分に硬化しない)場合があることになります。
さらに、一般的な焼入れ作業の冷却では、焼割れの危険性を避けるために、通例は「品物の温度が100℃以下になったら焼戻しする」というように指導されています。これによって、さらに変態量のばらつきが出ます。このために、こちらにあるような変寸量にもばらつきが出てしまいます。

オーステナイト系のステンレス鋼は、Ms点が常温以下にあるために、例えば、水冷しても硬化しません。この熱処理は、安定なオーステナイト組織を維持するための熱処理で、 この操作を溶体化処理(固溶化処理・水靭)と言います。

マルテンサイトについては、こちらにも関連記事があります。


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焼入れ操作

この「焼入れ」は、鋼種に応じた冷却をしないと十分な硬さが得られません。また、必要以上の冷却をすると、変形や割れの危険性が増します。このため、JIS規格やカタログなどに、 鋼種ごとに、冷却剤(冷却方法)が示されています。

冷却の方法は、水に入れる「水冷」、油に入れる「油冷」、空気中で冷やす「空冷」などのほか、攪拌するかしないか、引き上げるタイミングなどで冷却速度や冷却温度を調整します。

焼入れ工程の熱処理の加工記録(検査表の記録)には、「850℃×1時間油冷」のように、簡単に記録します。これは、焼入れ温度850℃で品物を1時間保持した後に油冷する・・・という内容ですが、この場合には、作業記録として記録されていなくても、60℃程度の油温の中に品物をつけていますし、油温に達するまで冷却しないで、途中で引き上げる操作をしています。もちろん、Ms点以下まで連続して冷す操作をしてもいいのですが、一般的には、曲がりや割れなどの問題を考慮して、普通は、 「早すぎず、遅すぎず」・・・という熱処理操作をするのですが、これらは鋼種、品物の大きさ、要求硬さなどが関係するために、ノウハウや勘による作業も多く、作業記録には記録されないことで熱処理をわかりにくくしている点も否めません。

「焼入れ=急冷」と説明していますが、Cr・Mnなどの焼入れ性を高める元素含有量が多い鋼種(高合金工具鋼など)では、 空気中に放冷する(空冷)だけで充分に硬化する鋼種がたくさんあります。この場合は、「急冷」ではありませんが、遅い冷却でも十分硬化しするので、「焼入れ」になります。 しかし、同様に加熱後に空冷操作するものでも、構造用に用いる低合金鋼などで、組織の均質化を図るために空冷する操作がありますが、これは焼入れと呼ばずに、「焼ならし」と言います。 もちろん、焼入れするほどの硬さは得られません。
また、空冷して十分に硬化する鋼種でも、油冷する場合があります。これは、早く冷却して、硬さ以外の特性を出す操作(じん性の低下を抑えたり、硬化深さを確保するなど)ということになります。

その他で、水冷についても、 オーステナイト系のステンレスなどで、その耐食性を高めるために、オーステナイト化温度から水冷する操作をしますが、これも焼入れとは呼ばずに、 溶体化処理、固溶体化処理などと言います。

・・・・・このように、焼入れ操作の問題だけをとっても、非常に多岐にわたりますので、これらも、熱処理をわかりにくくするのですが、このプラスα項目が 実際の熱処理(や熱処理上の問題を考えること)に重要ですので、基本事項~関連項目というように、説明していきます。


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焼入れ温度

熱処理パターン

焼入れをするために、変態点以上の温度に加熱するときの温度を「焼入れ温度」と言います。
ほとんどの鋼種では、JISやメーカーカタログなどに「適正焼入れ温度」などと、温度範囲が表示されていますので、基本的には、その温度を外れないように加熱します。

【焼入れ工程】 焼入れの工程(手順)は、図のように、焼入れ温度に加熱し、その温度に保持した後に適当な方法で冷却します。

温度の均一性を持たせるために、途中の温度で「予熱」して、そののちに目的の温度に昇温する場合もあります。


冷却方法は、水冷、油冷、雰囲気冷却、空冷などがあり、鋼種ごとに適当な方法が指示されています。冷却方法を誤ると、十分な硬さが出なかったり、 変形や割れが生じてしまうことがあります。

通常は、焼入れが完了すると、時間を置かずに「焼戻し」工程に進みます。焼入れと焼戻しは1組の工程として考えます。

「焼入れ」の成否は、(1)材料(成分・質量)による特性 (2)加熱温度 (3)冷却速度 などが関係します。
また、成否の評価は、硬さおよび機械的性質、 組織などを標準的なものと比較して判断されます。

たとえば、焼入れ冷却の際の冷却速度によって、硬さや組織が変化しますが、鋼種ごとに、水冷、油冷などの適当な冷却方法が指定されているものの、硬さや変形・変寸などの状態は、鋼種の成分の特性、品物のサイズや冷却材の状態、その他によっても影響されることもあって、 カタログなどにはほとんど示されていません。熱処理従事者の、経験や技量などの部分といえるのかもしれません。


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変態温度

また、旧JIS記載例の表中の、Ac・Ar があります。また、熱処理温度にも、幅があるのに気づかれましたか?

こちらの状態図をご覧ください。 この左中央の赤丸で囲んだ下に、A3-S-A1の線が変態線と呼ばれるラインを 「オーステナイト化温度」と呼ぶこともあり、この温度以上に加熱保持して急冷すると硬くなります。

ここに示した図は「恒温変態図」ですので、実際の熱処理では昇温冷却の速度があるので、この図で説明していいかどうかも迷うところですが、イメージでいうと、 この変態線(変態温度)は、加熱の場合は上方に、冷却の場合は下方に移動します。
Acは加熱の時の変態温度を、 Arは冷却の時の、それぞれおおよその「変態温度域」を示してます。

一般的には、焼入れの加熱温度は、加熱速度を考慮して、おおよそ「Ac3変態線+50℃程度」ですが、下図のような焼入れしたときの硬さによって決める考え方が確実です。(しかし現実的には、これを調べるのは大変ですが・・・)
このことから、焼入れ時の加熱温度は、成分の範囲、他鋼種との重複、加熱設備の状況、機械的性質などを考慮して、 表にあるように、ある程度の幅を持たせて表示されていると考えればいいでしょう。

焼入れ温度硬さ傾向

焼入れ硬さから見た、一般的な焼入れ温度・硬さの傾向は、左図のようになります。
このような傾向になるのは、「オーステナイト化組織」の状態と、その温度における「結晶粒度」、焼入れしたときの「残留オーステナイト量」 などによって、 図のような傾向になるのですが、温度を高くしすぎて結晶粒が大きくなったり、残留オーステナイトが多くなるのは、いい傾向ではありませんので、 必要以上に焼入れ温度を高くするのはいけません。

基本的には、最高硬さが得られる温度の手前の温度に加熱して焼入れしますが、JISや鋼種のカタログには、鋼種ごとに「標準加熱温度」が示されていますので、その温度範囲を外れないようにします。
加熱温度が低いと、焼入れ硬さが低下傾向になっていますし、高いと、結晶粒が大きくなって機械的性質が悪くなっていきますので、 図のような推奨範囲で加熱するのがいいでしょう。
工具鋼などの合金成分が多い鋼では、標準温度範囲を超えた温度に加熱すると、残留オーステナイト量が増えて、硬さが出にくくなるとともに、結晶粒が粗大化して、じん性値などが低下しますので、恒温側は特に注意する必要があります。これを「オーバーヒート(過熱)」と称される場合があります。SKD11(SLD)の顕微鏡組織例はこちら

しばしば、工具などにおいて、耐摩耗性の必要な品物は高めの温度で、じん性の必要な品物は低めの温度で・・・と言われますが、いずれも、 標準温度を外れることは好ましくありません。また、安易に、焼入れ硬さが出るようにと、高めの温度を採用することは結晶粒の粗大化を招きますので、注意しないといけません。


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焼入れ保持時間

保持時間の図品物を加熱して、焼入れ温度に到達してから、その温度で保持する時間を 「焼入れ保持時間(または単に保持時間)」と言います。

実際に品物を加熱する際には、左図のように、品物の表面で保持時間を決めることになりますが、内部の温度が把握しにくく、また、目的の加熱温度に近づくと、 昇温が緩やかになりますので、それらを考慮して時間を管理する必要があります。

一般鋼材の焼入れの保持時間については、古くからのアメリカでとられていた基準に沿って「焼入れでは鋼材1インチ当たり30分、(焼戻しでは1インチ当たり1時間)」 と言われてきましたので、当社も、この基準でサイズや装入量を層別して保持時間を決めています。

近年、構造用鋼などの低合金鋼などでは、保持時間が不要だという考え方があります。さらに、合金成分の多い鋼では、それが溶け込むためには、 ある程度の時間が必要だという意見があります。

当社での実験によれば、工具鋼を含むほとんどの鋼では、特に焼入れ保持時間を設ける必要はありませんでしたが、過熱(変態点を超えても変態しない状態)を考える必要があることや、炭化物(厳密には共析炭化物)がオーステナイト中に溶け込むのに必要な時間、 さらには、温度にともなう不確かな要素(炉の熱容量、加熱速度、予熱の有無、装入方法、温度分布など)などを考慮すると、ゼロではなく、 若干の余裕を持った時間が良いという考え方で上記の時間を採用しています。

もちろん、保持時間が長くなると、結晶粒が大きくなって、じん性が低下するなどの問題が出ますので、必要以上の保持時間をとってはいけないのは当然です。

高速度工具鋼については、合金成分量が多く、1100℃以上の高い焼入れ温度で焼入れするものが多いので、長い保持時間を取って結晶粒が粗大化するのを避ける必要から、短かめの保持時間になります。
(これについては、いろいろな要素が関係しますので、ここでは詳しくは触れません)
焼戻しについては、こちらで説明しています。
焼戻しの保持時間は、おおむね、「1インチあたり1時間」を基準にして作業を標準化してしまえば、特に問題はないでしょう。


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焼入れ時の冷却

冷却シミュレーション 焼入れのために高温に加熱して赤熱した品物を冷やすときに、扇風機に当てて冷やすよりも油のほうが、また、それよりも、水中に入れるほうが、 さらに、冷却中に強く振るほうが早く冷えます。
このために、水冷(または水焼入れ)、油冷(油焼入れ)、空冷(空気焼入れ)、ガス冷(雰囲気冷却:普通は窒素ガスによる場合が多い)などの方法で冷却速度を変えるのはもちろん、攪拌程度、途中引き上げなどで調整します。

左図は、小さな丸棒を3種類の方法で冷却したときの温度推移を示した例です。

この図で見ると、小さな品物で、なおかつ、単純な形状であれば、油冷→ソルト冷却→衝風空冷の順で早く冷えるということが確認できますが、一般の品物になると、 冷却中は隅角部や表面から温度が下がりますので、冷え方が不均一になり、曲りや焼割れ、硬さなどを考えないといけません。このために、冷却過程の温度を調節するするのですが、 完全に冷却するまでに途中で液体から引き上げたり、 気体の風量を調節するなどが行われます。それによって「曲がり」や「割れ」対策をする場合もあります。このように、冷却速度を調整するためには、 撹拌したり流速を変えたり、冷やす時間を変えたり、ソルトバスや ホットオイルなど、冷却剤の温度を変えるなどで品物が冷える速度(冷却速度)や 変態終止温度を変えたり調節したりします。

その他、特殊な冷却方法として、金型ではさみ、その熱伝導を利用して冷却する方法は「プレス焼入れ」「金型焼入れ」などと呼ばれて、 曲り取りを併用する焼入れとして利用されます。最近では、ホットスタンプとよばれる、自動車用鋼板などのの成形技術も、このような金型冷却を利用しています。

冷却をシミュレートするためには、いろいろな要素を考えなければなりません。品物の持つ温度を、冷媒である空気や水などが奪い去ることで品物の温度を低下していきますが、 熱の移動は、伝導と対流が主に関係します。鋼材の特性で、温度域によって熱伝達係数、比熱、熱伝導率などが変わります。冷媒の温度、攪拌速度(流量)や、 一般的には鋼であれば、組織変化する時の発熱、品物や冷却材の量なども影響します。これらを、シミュレーションソフトを使って検討するのも大変ですが、 熱処理品質向上のためには、冷却過程の研究は一つのポイントといえるでしょう。

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炭素量と最高硬さの関係

炭素量と最高硬さの関係図炭素鋼においては、 鋼中の炭素量は、焼入れしたときの最高硬さに関係します。
図では、マルテンサイトによって硬化する硬さは約0.6%程度の炭素量で飽和しているのがわかります。
この図は、理想的な冷却を想定したものですので、実際の熱処理では、この通りには行きませんし、また、0.6%以上の炭素量量では、単純に、 焼入れ硬さが同じ硬さになるというものでもありません。

実例をあげますと、炭素量が約0.85%の小さな共析鋼の小片を水焼入れしますと、65HRC程度の表面硬さは出ますが、これが15mm径ほどになると、 硬さもばらばらになり、 60HRC以下のところもでてくる・・・というように、焼入れ性の低い鋼種は、冷却条件の影響を受けやすいので、 この図のようにはなりません。また、共析鋼以上の炭素量になると、 炭化物が分離して、それが硬さに影響しますので、JISではSK85(旧規格のSK5)がほぼ共析鋼に近い炭素量ですが、 実際に焼入れでは、それより炭素量の多いSK105(旧規格のSK3)のほうが、 高い硬さになります。

ここで、50%マルテンサイトの場合の低合金鋼のグラフで見られるように、CrやMo、W、Niなどの焼入性を高める合金元素が加われば、 焼入れ硬さが上昇してくるということがイメージできますね。
しかし、この図は、素地の炭素量がわかれば、最高硬さが推定できるので、非常に役に立ちます。
熱間鍛造用の金型などでは、硬すぎれば割れてしまいますので、たとえば、45HRC程度の硬さで充分だとすれば、0.6%以上の炭素量は必要がない (C量が高くないほうがいい)・・・ということがなんとなくこのグラフからイメージできるでしょう。

【臨界直径】ここで、熱処理用語で、直径に対して3倍以上の長さの品物を、与えられた方法で焼入れしたときに、 その中心が50%マルテンサイトになる丸棒の直径を「臨界直径」と言います。

【臨界冷却速度】焼き入れの際に、硬いマルテンサイトが生じる最低の冷却速度を臨界冷却速度と言います。臨海冷却速度よりも早く冷却した鋼は、 硬いマルテンサイト量が増えますし、 それより遅い冷却速度ではトゥルースタイトやベイナイトなど、マルテンサイトでない組織が多くなって、マルテンサイトほど硬くならない状態になります。またここで、 ある冷却方法で棒材の中心部が50%がマルテンサイトになる鋼材径を臨界直径と言い、無限大の冷却速度での臨界直径を、理想臨界直径という言い方をします。臨界冷却速度は、 もちろん、鋼材の成分(鋼種)と品物の大きさで変わってきます。


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焼入れ性を増す合金元素

合金元素の焼入性倍数

①焼入れしたときに、十分な硬さが得られること ②その時の硬化する深さが深いことを「焼入れ性がいい」というように表現しますが、左図のように、 焼入れ性を増す合金の含有量によって、焼入れ性が変わりますので、鋼材の機械的性質や熱処理特性が成分によって変化するということになります。

焼入れ性が増せば、質量効果を受ける大きな品物でも、表面の硬さが増加するようになりますし、表面から内部への硬さ低下度合いが緩やかになります。
しかし、先にも書きましたが、鋼種としての成分を考えるとき、これらの成分を増やせばいいというものではありません。例えば、焼入れしたときに残留オーステナイトが多くなって、 焼が入りにくくなったり、炭化物を作る元素であれば、じん性などの機械的性質が低下したりしますので、ここでは、このグラフにある合金成分が高い鋼種は、 焼入れ性がいい・・・という程度に理解ください。

【コラム:高硬度鋼】ショアー硬さの100は、鋼の最高硬さを100としたということを聞いたことがあります。常用の 硬さ換算表には掲載されていませんが、数値を外挿すると、HSの100は、70HRC、1000HV程度のイメージですね。近年は、粉末ハイスや硬さを売り物にした高合金鋼で、70HRCを超える鋼種が販売されています。 ロックウェル硬さ計で測ると、確かに硬さは出ます。これらは、炭化物が多い鋼種ですので、その硬さを含めて高い硬さになっています。炭化物は硬いので、摩耗試験での耐摩耗性は増しますが、「硬い」ということは「もろい」ということにもなります。鋭利な刃物では、硬ければ寿命がよいという考え方はあてはまりません。使う対象によって「硬さ=寿命」になりませんので、注意する必要があります。


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焼入れ性

焼入れによって硬化しやすいかどうかを表現する用語に、「焼入れ性」があります。これは、鋼が、焼入れによって高い硬さになるかどうか、内部までその硬さが低下しにくいかどうか・・・という特性を言います。焼入れ性試験や断面硬さの傾向(Uカーブなど)でそれを表現される場合もありますが、この用語は、次第に概念的なものになってきているようです。つまり、「焼入れ性が良い鋼種」は、焼入れ温度から、急冷しなくても、油冷や、空気中で放冷などのするなどの、おそい冷却方法でも 充分に硬化する鋼種で、逆に、焼入れ性が悪い鋼種は、小さな品物でも、 水で急冷しないと充分に硬化しなかったり、表面硬さにムラが出るような鋼種という区別を表す程度になってきています。

焼入れ性は、構造用鋼などではJISで、ジョミニ一端焼入れ性試験など、焼入れ端からの硬さ推移を測定するなどで視覚化されるものもあります。焼戻しをした時の硬さ推移が表示されているので、内部硬さの推測などに利用できますが、この試験は、水冷による試験であることで油冷用の鋼種には向かないことや、25mm径の試験片のために、焼入れ性の良い鋼種では全体が硬化するなどで不都合があります。焼入れ性のいい鋼種の評価として、日立金属(株)では、「半冷試験」という方法などが利用されています。

型材などの品物を設計する場合には、焼入れした結果、①どれくらい硬くなるのか? ②その硬さを得るための加熱温度は何度がいいのか? さらに、 求める表面硬さが得られるには ③品物の大きさの限界はどのくらいか? ④そのときの内部の硬さはどうなっているのか?? ? などがあらかじめわかると便利ですが、残念ながら、各鋼種についての資料がそろっていません。現状では、「焼いてみるほうが手っ取り早い」状況といえるでしょう。

鋼は鉄(Fe)と炭素(C)の合金で、炭素量で焼入れしたときの最高硬さが決まるのですが、品物が大きくなるにつれて質量効果によって表面の硬さが低下します。そこに焼入れ性を高める合金元素を加えると、表面硬さの低下と、内部への硬さの低下が抑えられます。これを、合金添加による焼入れ性の向上・・・などと表現されます。


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引張強さと硬さ

硬さは引張強さなどの「強さ」と相関があります。(硬さ換算表には、硬さと引張強さの関係が示されているものがあります)
硬さが高くなると、引張強さが増加しますので、「強さ」を上げるために熱処理(焼入れ)をする・・・ということになります。
しかし、硬さと衝撃値は逆の相関があります。一般的に言って、、 硬くなると、耐衝撃性が「低下」します。このこともあって、機械構造用炭素鋼や低合金鋼などを用いる場合には、硬さよりも強靭性が重要なので、炭素量が0.5%以下のものを用いて、500℃以上の、比較的高温で焼き戻しして、表面と内部の硬さを少なくする熱処理(=調質)が主体となっています。

引張強さは、硬さとともに上昇しますが、およそ200kg/?(55HRC程度)以上になると、硬さとの相関がなくなってきます。 これ以上に高い硬さの出る鋼種であっても、 硬さを上げても、それほど引張強さが出なかったり、逆に、低下してくる場合もあるので、むやみに硬さを上げることだけにこだわるのは考えものです。

工具類については、「切削工具」などの、非常に高い硬さと耐摩耗性が必要なものは、当然、炭素量が多くなっています。反対に、熱間で用いられる工具などでは「高温強度」 「耐熱性」などの性質が必要なために、炭素量が0.4以下程度に抑えたものが多いのですが、これはやはり、炭素量による影響が大きいということでしょう。

いろいろな特性を高めるために、様々な合金元素が添加されて、それが新しい成分系の鋼種として分類されていますが、残念ながら、合金量を増やせばいいというものではありません。また、その特性を評価する試験方法を決めることも大変で、「絶対的に良いオールマイティーな鋼種」は簡単に見つからないので、鋼種選択という作業を難しくしているといえるかもしれません。

【硬化の仕組み】 このHPでは主に、熱処理による硬化については、焼入れしたときにマルテンサイト変態して硬化する場合について説明していますが、一般的に言って、金属類の硬化の仕組みには「転位」「固溶」「析出」「粒子分散」 などによるものがあるとされています。簡単な説明をしますと、通常の鋼は、多結晶体で、その結晶が整然として並んでおらず、「転位」と呼ばれる欠陥があります。鋼を変形(加工)すると、その転位がさらにもつれ合って、硬く(加工硬化と言います)なります。マルテンサイト変態も、結晶構造が変化することで内部ひずみが増加して強くなるものですが、これらが「転移」による強化です。次に、その転位の隙間に炭素や窒素などの侵入型元素が入り込んで、さらに内部ひずみを増加させて強化することができます。浸炭や窒化の機構も転位による強化です。しかし、元素の直径が小さい、酸素、水素、窒素、炭素などではなく、クロムやニッケルなどになると、鉄に置換して、それで固溶体を形成し、鋼を強化します。例えば、強靭鋼と言われるものは、Crなどを添加することで、この強化機構を利用しています。これが「固溶」による強化になります。
析出とは、焼入れ、2次硬化、時効など、温度などによって共析炭化物や金属間化合物などの新しい相(組織)が析出することで強度が変化する場合などをいいます。、粒子分散は、素地中に炭化物などがあると、強度の状態が変わることなどが例として挙げられます。これらを組み合わせることで、新しい性質を持った鋼を作り出そうとする場合の基本的な考え方です。詳しくは、専門書籍で確認ください。


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不完全焼入れ

「不完全焼入れ」の定義はあいまいで難しいのですが、鋼を焼き入れたとき、表面と内部の組織や硬さに差があり、それが標準的なものと異なっている場合を「不完全焼入れ」と言います。 しかし、実際の品物では、正常に焼入れしても、表面と内部の硬さや組織が異なることは特殊なことではありませんので、この言葉の使い方には注意する必要があるかもしれません。

品物の大きさによるのはもちろん、成分的な影響から、いくら急速に冷却しても、部分的にみると、冷却速度は異なっていますので、完全に同一のマルテンサイト状態にならないで、 ①未変態のオーステナイト(残留オーステナイト)が残る状態になっていたり、②パーライトなどと呼ばれる、フェライト(Fe)とセメンタイト (Fe3C :「3」は小さい3  炭素1つと鉄原子3つの化合物の意味)の混合組織が生じたり、③それらやマルテンサイトの中間のようなベイナイトと言われるような組織 などが混在するものであったりします。 これらも、総括して「不完全焼入れ」と言われます。

顕微鏡組織を見ることや硬さ測定によって不均一さの発生原因や発生経過を推定できる場合が多いのですが、実際の品物では、鋼種の焼入れ性や品物が大きさなどの限界が関係するとともに、 各部位の冷却速度や加熱条件なども均一にはなりにくいために、品物の各部位でいろいろな組織が出現したり、 それらが混在して焼入れが完了しているといえます。


不完全焼入れは良くないのか?

過去には、「不完全焼入れは、良くない」と言われてきました。例えば、構造用鋼などでは、強靭性を増す目的で、焼入れ後に500℃以上の高温で焼戻しをする場合が多くあり(調質)、この時、不完全焼入れの場合には、完全焼入れしたものよりも耐衝撃性が劣る・・・などの影響が出ると説明されてきました。 しかし、構造用鋼などでは、合金元素の量もあまり多くなく、品物の大きさが少し大きくなると、不完全焼入れになるのが当然でしょう。

これらは、全体的な強度などを考えて使用されるものなので、成分や形状からみて、完全焼入れができない場合には、設計的に成分などを考慮する方法もあるのですが、 一方では、あえて冷却速度を遅くして、全体の組織を均一化して全体的な強度バランスを取ったほうがいい場合もあります。この考え方によって、 水焼入れが推奨されている鋼種を油焼入れするという方法をとる場合も出てきます。
その他にも、水焼入れが推奨される鋼種でも、曲りや応力バランスを考えて、あえて油焼入れ焼戻しをしたり、鋼種に指定された焼入れ方法をとらずに、 焼ならし+焼戻しする(業界用語で「ノルテン」と言われます)という仕様もあります。

このように、理屈とは別に、実用的な面から、熱処理の仕様が決められて実施されている場合も多くありますので、「不完全焼入れは、良くない」という一義的にいう言い方は、 ふさわしくないのかもしれません。


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焼入性と有芯焼入れ

鋼を焼き入れをしたときに、表面が十分に硬くなることや、その硬さが内部まで低下しにくい状態を、「焼入性がいい」という言い方をしますが、「焼の入りやすさ」には、(1)どのくらいの最高硬さになるかということと、(2)どれくらいの深さまでその硬さが確保されているか・・・ という指標があります。前者は主に、鋼中の炭素量に関係する「表面硬さ」、後者は「焼入れ深さ」という表現もあります。

教科書的な説明による「焼入れ性」は、機械構造用鋼などでは25mm径の片端面から水で冷却する焼入れをしたときの硬さで評価する 「ジョミニ1端焼入れ試験方法」などがありますが、これは主に、 焼入れ性の低い材料評価するための試験でしょう。
これらの焼入性の低い鋼材を焼入れをすると、表面は硬化しますが、中心まで硬化しない状態になります。

S45C焼入れ模式図

この状態を「有芯焼入れ」と表現されることがあります。 例えば、S45Cのφ50の鋼材を水焼入れした場合に、最表面はマルテンサイト(+フェライトの混合組織) に なっていますが、 表面から数mm内部になると、フェライトと、ソルバイトなどの混合組織で、中心にいくほど、軟らかくなっています。 (この例では、片側表面を示していますが、表面から15mm内部は、全く焼入れ硬化は見られません)

断面の硬さを測定すると、中心部が低くなる「U字」のような分布になるため、それを「Uカーブ」と言いますが、これは、全体が同一組織ではないために、 表面は硬く耐摩耗性がある状態に、そして、内部は、表面より軟らかく、衝撃性の強い状態になっていることで、品物の用途によっては、「良い状態」と言える場合もあります。

高周波焼入れで表面硬化する場合も同様で、中心部までは硬化しません。
高周波焼入れは、表面の硬さや疲労強度、耐摩耗性を付加する熱処理として重宝されます。硬化する深さは、主に印加する高周波電流の周波数によって決まり、 図のように、境界層を隔てた硬さの差が大きい状態になります。これが、表面に圧縮応力を与える、特徴ある熱処理性質が得られます。
一方で、ある鋼種(図ではS45C)を全体加熱して焼入れした場合には、上図のように、表面から内部への硬さや組織の変化が緩やになりますので、 全体強度も上がることから、その特徴を利用する場合があります。


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質量効果と臨界直径

SCM材の熱処理特性

品物が大きくなると、焼入れ時の冷却速度が低下して、焼入れ硬さが低下します。
この図は、SCM435の例で、日本鉄鋼協会データシートから引用したものですが、焼入れする品物が大きくなってくると、全体が冷えにくくなりますので、それにつれて、 内部も表面も、硬さが低下します。
焼き戻ししたときの状態も示されていますが、全体的に、太くなると、硬さが低下しているということがわかります。これが、 「鋼材の質量効果による硬さへの影響」です。マスエフェクト(mass-effect)と言われる場合もあります。

このように、焼入れ性を高める合金元素の含有量が少ない構造用鋼では、少し大きな形状になると、表面硬さが低下する影響が出ますし、もとろん、表面と内部は同じ組織が得られません。

その機械的性質への影響については、一般的には、引張強さ、圧縮強さは「硬さ」に依存しますので、熱処理で硬さを調節することで、ほとんどのニーズに対応できます。 しかし、同硬さにおいては、冷却が遅いと、耐力、じん性値の低下があるのが一般的ですので、そのような特性評価が求められる場合は、 予備試験や実体試験などで確認しなければなりません。しかし、試験片の取り方などの影響もあるので、それをやるとしても、いろいろ難しい問題がでてきます。


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機械構造用鋼の熱処理

機械構造用鋼(例えば、S45CやSCM435など)は、古いJISハンドブックには、標準熱処理条件や機械的性質の資料やデータ類が示されていて、それらは熱処理従事者には便利なものでした。熱処理情報としての表やグラフなどの数値は大変役に立つものでしたが、年を経るごとにハンドブックへの記載事項が増えて、これらの参考事項が削除されていき、JISハンドブックは、単に、規格や項目が示されているだけの、無味乾燥した、使い物にならないものになってきている感じがします。

JISハンドブックに限らず、近年、熱処理関連で、いろいろな基礎的な資料が載った書籍文献の数が減っています。特に、一般熱処理はローテク分野になり下がったのか、研究例や発表例が減っていて、ついには消えていく傾向が強いようですが、当社でも、昔々(昭和年代)からの資料を大事にしていくしか手がない状態です。

旧JIS抜粋

一例ですが、S45Cの焼入れ・焼戻しについて見てみますと、ここには、標準の熱処理条件とその結果の一例が示されています。焼入れは、中心温度の850℃程度に加熱して水冷した後に、 600℃程度の焼戻しをすると、200HBW程度の硬さになる・・・ということがわかります。この場合に、これらは、通常、15mm径程度以下の試験片で実験されています。焼入れ性が低い材料ですので、もちろん、品物が大きくなると、中心部硬さが低下し、 さらに大きくなると、表面が十分に硬化しません。
この詳細を知りたい場合が多いのですが、次項の方法など、「化学成分」「焼入れ曲線」「臨界直径」などで推定する方法があります。しかし、推定であり、確実なものではありません。

調質

上記の表に書かれている焼入れ・焼戻し処理は、「適正な焼入れ」と「500℃以上の焼戻し」によって、熱処理品全体の結晶粒や組織を均一化し、 強い鋼にするための熱処理が示されています。これを、焼入れ・焼戻しと言わずに、「調質」と言って区別します。

もちろんここで、ここにあるように500℃以上に焼き戻しをしてしまうと、硬さが表中の数字のように下がってしまいますので、高い表面硬さが必要な場合は、 焼戻しで硬さが低下しないように、例えば、180℃というような低温で焼き戻しすることになります。そのためには、焼入れしたままの表面硬さはどのようなのかが知りたい場合も出てきますね。

それについては、①ジョミニ焼入れ性試験データを利用する ②JISなどにある付表データを利用する ③CCT曲線を利用する・・・などが考えられます。しかし、 残念ながら、幅広い鋼種に対するデータがないことや、これらを理解するためには、他の資料やいろいろな知識が必要になることもあって、説明するのも大変ですので、 ここでは、簡単な紹介だけにとどめます。

SCM435ジェミニ試験例 ①SCM435のジョミニー焼入れ性試験の例
SCM435調質データ例②SCM435の調質データの例
SK85相当鋼のCCT曲線例③SK85相当鋼のCCT曲線の例


①はジョミニ―焼入れ試験による結果です。ここでは焼き戻し後の硬さがあわせて示されていますので、ある温度で焼戻ししたときの内部硬さを推定することもできます。 しかし、残念ながら、このジョミニ焼入れ性試験は、「水」で焼入れしていますので、本来SCM435は油焼入れが標準のため、注意しないといけません。
(過去に、「油冷」のジョミニ試験例を見た記憶があって、探したのですが見つかりませんでした。これらも、過去のものになり、近年ではあまり基礎的な新実験データを見ることもなくなっています)

②は、左端に「焼きならし硬さ」が示されていますが、焼入れ硬さが示されたものもあると思います。それらも、参考になります。
また、 JISの参考資料に、 質量効果を考慮したこちらの図などもありますので、JISハンドブックなどでご覧ください。

③はCCT曲線の例です。横軸の上にビッカース硬さが併記されているものが多いので、それが冷却速度と硬さの関係の参考になるでしょう。ただし、これは、 等速冷却で表示されています。ちょっと使いにくいかもしれません。
実際的に製品の仕様に合った熱処理をする場合は、焼いてみないとわからないのですが、焼入れ後の表面硬さを測って焼戻しの温度を決めることによって、 かなり広範囲に表面硬さを調整できますし、JISマーク表示許可工場(いわゆる「JIS工場」)等では、この旧JISにある内容を基に、 自社の社内標準を作って対応することになっていますので、熱処理工場の現場の方は、経験的に硬さの決め方を知っていますので、聞いてみるのが早いかもしれません。


焼ならし

構造用鋼などでは「焼ならし」をした状態で使用される鋼材も多いようです。「焼ならし」の目的は、組織を改善し、焼なまし状態よりも少し高めの硬さにすることで強度を高くしたり、 切削性をよくする目的で行われます。

鋼を製造する圧延過程や鍛造した場合、特殊な形状のものでは、しばしば肉厚の不同部分や鋼塊の部位などで過熱や部分冷却などで組織や結晶粒の不揃いが生じることがあり、 それを「焼ならし」することで改善するために行います。また、均一な温度に再加熱されますので、残留応力が緩和する目的などでも行われます。

しかし、丸棒鋼などは、 連続圧延工程で製造されており、加熱冷却工程もコントロールされているために、圧延過程での不具合要素はほとんどないといえるでしょう。 焼ならしの方法は、JISなどで指定された温度に加熱して放冷する操作を言いますが、結晶粒の調整が目的ですので、加熱温度は焼入れ温度と同様又は20-30℃高めの温度をとることが多く、 また、冷却については、組織的な調整や硬さの調整を要求されることもあり、これは、冷却操作で「放冷」する以外に、「衝風空冷」などで 冷却速度を変えて硬さ(引張強さ)などを調整する場合があります。 上記の表中の硬さ数字は、25mm径程度の試験片による数値が示されていますが、 大径になるとここに示された硬さ以下になります。

焼ならしの英語表記はNormarizingで、熱処理加工工程記号では「HNR」。
しばしば、空冷操作で硬さ(引張強さ)が高い場合は、そのあとで焼き戻しをすることもあります。これを、業界用語では(ドイツ語読みとからめて) 「ノルテン」と言われます。ノルマル-テンパーということでしょう。


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JIS硬さで焼入れをお願いします?

お客様が、機械構造用鋼(例えばSCM435)の調質を依頼される際に、「JIS硬さで・・・」とおっしゃる方がおられます。これは、上記でも書きましたが、旧のJIS規格に、 上記に示す硬さなどが記載されていた名残ですが、熱処理業者としては、これを、「検査する表面硬さが、旧JISにある硬さ範囲にする・・・」というように受け取っています。 (これは、重要な意味を含んでいます)
焼入れ温度や冷却はJISに沿って行われますが、ここで、お客様側では、注意しておいていただかないといけない点があります。

一般的には、特別な仕様がなければ、 暗黙の了解事項がいろいろあります。これは、よく言えば「標準仕様」ですが、そこには当然、表面と内部の硬さが異なっていること、そして、硬さの指定があれば、 測定位置の硬さが、それになるように、焼戻し温度を調節されること・・・になります。

たとえば、SCM435でφ100の品物についていえば、(こちらを参考にしながらお読みください) それを上記の標準の条件で焼入れすれば、 表面硬さが40HRC(370HBW)程度になり、それを焼戻し記載温度の低めの550℃で焼き戻しすると、表面硬さは26HRC(259HBW)程度となって、 上記の硬さから外れることになりますので、この時、表面硬さが上表に示す範囲に入れたいのであれば、450℃程度の焼戻しをしなければなりません。そうすると、 温度範囲がJIS表記から離れる上に、表面と中心との硬さの差が広がってきますので、本来の「調質」の概念から外れるという問題が出てきます。

熱処理依頼時には、ほとんどが「熱処理の種類」と「硬さ」だけの取引で、上記のような表面硬さと内部硬さの違いを打ち合わせることはありません。もちろんこれらは、設計時に検討されておかなければならない問題ですが、高度な知識や裏付けが必要ですので、おおくは、それを問題にすることもなく、スルーされているといっていいでしょう。このために、これが人身事故になれば検討されるのですが、ここには、むずかしい問題を含んでいます。

焼いてみないとワカラナイ?

この言葉も、何度か出てきていますが、すこし紹介します。昔(1990年ごろ以前)は、当社の社内ではしばしば「焼いてみなければわからない」という言葉を耳にしました。現在のように、空気焼入れ鋼と呼ばれるような、 焼入れ性の高い高級鋼が少なかったために、質量効果や形状が関係して、十分な硬さが出にくかったためでしょうか・・・。

「この品物は、どのくらいの硬さになるのか?」「十分な硬さが得られるのか?」などはお客様(設計者)にとっては大事な問題ですが、 熱処理を請け負う側(業者)では、 焼入れ硬さはともかく、「変形に対応しないといけないので、冷却速度をコントロールして、硬さを犠牲にしないといけない」ということや、「他の品物と抱き合わせで処理しないと、 納期が間に合わない」、「しかし、そうすると、若干低めの焼入れ温度になって、さらに硬さが出にくい」・・・などのいろいろな問題が内在しています。
もちろん、 最高の品質となる熱処理条件は1つしかないのですが、業者としては、効率や利益を考えないといけませんし、特殊な費用を提供していただければいいのですが、そのような熱処理加工者の思惑を説明したり理解していただくことは至難の業ですので、 つい「焼いてみないと・・・」と言ういい方になっていたのかもしれません。

今日では、焼入れ性の高い鋼種が増えていますし、熱処理の標準化も進んでいますので、過去に比べて、熱処理がやりやすく、問題が起きない状況になっていますが、 設計者(熱処理依頼者)が、基本的な熱処理設計に必要な知識をある程度理解して、さらに、鋼材供給者や熱処理業者側などの問題点を知ることが、より良い製品が得られることにつながるということになる例を紹介させていただきました。


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熱処理用試験片

熱処理用の試験は、一般的には、15mm(角・丸)程度以下で試験されていると考えていいでしょう。
そのため、機械試験(例えば、引張試験など)については、品物が大きい場合には、試験片の採取について、充分に検討して理解しておく必要があります。
たとえば、50mm径のS45Cの品物に対して、 JIS4号の引張試験を要求されていた場合に、①製品と同形状のものから熱処理後に指定位置で削り出した場合と、 ②つかみ部分の径(例えば25mm)の棒鋼を熱処理して、 試験部分の14mm径を削り出して試験するのと、③ほとんど試験片形状に削り出しておいて、熱処理後に仕上げ加工をして試験するのでは、結果が異なります。当然、同じ熱処理をしても、硬さも異なる結果になりますし、その機械的性質も変わってきます。

このような文章にすると、質量効果の影響で、試験結果が異なるだろうということが何となく理解できますが、設計段階で、このことが理解されていないことがしばしばあるのです。
一般的には、硬さは試験片のつかみ部分で確認しますので、 引張部分(試験片の14mm径の部分)の硬さについては、①②③で異なってきます。このために、材料取りをどうするか、試験片の硬さについてはどうなのか・・・などについて、 設計段階で考えておかねばなりません。つまり、試験片と製品の硬さが異なる可能性があれば、硬さに対応した試験をするためには、 試験片だけを別熱処理しないと評価ができないという要求の場合も出てきます。


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工具鋼などの高合金鋼の焼入について

近年は、工具用には十分な硬さと硬化深度が得られる工具鋼が多用されており、その焼入れにおける説明なども、機械構造用などの低合金鋼と異なってきています。

高合金鋼は、構造用鋼や焼入性の低い鋼と異なり、どうしたら硬さが得られるのか?・・・などよりも、より性能(耐摩耗性やじん性など)が高いものにするにはどうすればいいのか・・・ ということなどが重要になります。

このような焼入れ性の高い鋼種に対しては、小さな試料(試験片)を用いて焼入れ性を評価しても意味がありません。しかし、大きい試料を用いて試験も経済的な問題があります。 このようなことから、例えば、工具鋼メーカーの日立金属(株)では、実際の品物の焼入れをする場合の「質量効果(mass effectマスエフェクト)と焼入れ硬さの関係」が実感されやすいように、 太い丸棒を焼入れした時に、表面と同等の硬さになる最大直径などで評価する方法などが示されています。

日立金属半冷時間例

この図表を、日立金属(株)では「半冷曲線」と呼んでいますが、丸棒中心部が焼入れ温度の1/2の温度になるときの冷却時間と硬さで焼入れ性を評価しています。
ここでは、たとえば、1030℃の焼入れ温度で室温が30℃とすれば、焼入れを開始してから、500℃になるまでの時間と硬さの関係が示されています。
丸棒径に対応させた図表なども作成されており、これを用いると、 ある丸棒径の品物を焼入れしたときの各部の硬さも推定することができます。

ここのある SGT(SKS3)は、比較的低合金の高硬度の耐摩耗鋼ですが、油焼入れする鋼種であるために、中心に向かって硬さが低下していますが、焼入れ性の良いSLD(SKD11) やDAC(SKD61)では、この図に見られるように、表面から中心部に向かっての硬さが低下しない範囲が大きい様子が示されています。

これは、硬さについての情報だけですが、大きい寸法の品物を焼入れしたときには、表面より内部の硬さが低くなっているとともに組織も変化しています。 そのような品物では表層と内部では機械的性質が異なっていて、表面より内部の性能が劣るのは一般的ですが、残念ながら、そこまでの情報や資料は、メーカーからは提供されていません。

日立金属を含めて、工具鋼メーカーでは、それらのサイズと硬さが考慮された資料が作成されています。
工具鋼の場合には、硬さだけの情報よりも、 機械的性質に関連する情報が求められますので、硬さに応じた「焼戻し温度と機械的性質」に関する図表のほうが必然的に多いといえます。


合金が増えると?

炭素工具鋼では、共析成分以上の炭素を含む場合は、焼入れしたときに炭化物として球状化したセメンタイト(Fe3C)が耐摩耗性を高める効果がありますが、 一般の高炭素鋼や高合金鋼の場合では、炭素とCrやVなどの合金成分が化合して、 セメンタイト以上の硬さを持つ炭化物が生成することで、さらに高い耐摩耗性を持った鋼種がたくさんあります。

高炭素の鋼が、製鋼過程で、通常の熱処理によって変化しない共晶炭化物を析出すると、炭素が炭化物になっていますので、素地(マトリックス)中のC%量が相対的に少なくなっています。
その場合に、(炭化物を除いた)素地の炭素量がわかれば、その鋼のマトリックス部分のおよその最高硬さが推定されます。

SKD11組織写真例

たとえば、SKD11の総炭素量は約1.5%ですが、大きな共晶炭化物のない素地部分の炭素量は0.5%弱程度になっていますので、上のグラフから、 素地の最高硬さは62HRC程度の素地の硬さが得られるだろうと推定できますし、 SKD61は、共晶炭化物がなく、炭素量は0.35%程度なので、どうあがいても、58HRC以上の硬さは出ないだろうという推定ができます。

もちろん、通常の硬さ測定では、炭化物部分を含んだ部分を測定しますし、残留オーステナイトなどの影響や微小部分での成分のばらつきなどもあるので、これは、 「およそ」の域は出ませんが、結構役に立ちます。(用語については、リンク部分または、こちらから参照ください)


市販材では・・・

余談になりますが、市販されている鋼種では、ある程度の成分範囲を持って成分値が規定されていますので、例えば、機械構造用鋼や低合金の工具鋼などの、焼入れ性を高める合金量が低い鋼種では、 同じ鋼種でも焼入れ特性に差があると感じる場合がしばしば生じます。
よくある例ですが、たとえば、軸受鋼に分類されるSUJ2は炭素工具鋼よりも安価で、高品質なこともあって、機械部品に多く使用されますが、これは、 1%C-1.5%Cr鋼で、小さな品物では油冷して62HRC以上の表面硬さが出ます。しかし、肉厚が1cmを越えてくると、表面の焼入れ硬さが充分に出ない・・・ということを経験します。 これがさらに運悪く、CやCrが規格下限であれば、しばしば、表面硬さムラや硬度不足に悩まされることがあるのですが、これはSUJ2の宿命ですので、どうしようもありません。
これに対する手っ取り早い対策案は鋼種変更で、SUJ2に焼入れ性を増すMnを1%加えたSUJ3を使用することで、そのような問題が解決される場合が多いのですが、残念ながら、 SUJ3は、市販されるサイズが限定されているなどの、また新たな問題が出てきます。
もちろん、焼入れ硬さは鋼材の成分によるものだけではありませんので、 ほかの対策も考えられますが、この例のように、焼入れ性は、品物のサイズが限定されることになるという一つの例でしょう。

このように、構造用合金鋼などを含めて、高硬さを求める場合には、合金成分量が規格内であっても、質量効果とともに、微妙なところでMn Cr Moなどの焼入れ性を高める元素の量によって、 焼入れ硬さの状態が大きく変わるということを認識しておく必要があります。


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市販鋼種の焼入れ温度や焼戻し硬さについて

工具鋼の分野でも、JIS規格にある鋼種であれば、JIS規格に必要事項が記載されていますが、特に、工具鋼などでは、メーカー名で販売される鋼種がほとんどですので、この場合は、 メーカーの資料を重視するほうが詳細でわかりやすいといえます。
JIS鋼種の相当材であっても、すべてのメーカー規格は、JIS以上に厳しいもので管理されて製造されていますので、安心して使用できます。また、鋼種名については、 メーカー名で呼称するほうがBETTERでしょう。

JISに規定されていない市販の鋼種については、メーカーごとに各種の技術資料が公表されていますので、それを基に熱処理することになります。ここでは、 鋼材メーカーの日立金属(株)のカタログ例で説明します。

日立金属の標準熱処理条件例 SLDの熱処理曲線

上記は同社のカタログH-MT3から引用していますが、標準的な鋼種のSLD(JISのSKD11相当)について見ますと、上の左は、標準熱処理条件、 右は焼戻し温度と硬さの関係が示されています。

この標準熱処理条件は、小さな試験片で1010~1050℃で空冷して160℃の焼戻しをすれば、58HRC以上の硬さが出ます・・・ということが書かれています。注意する点は、 「この熱処理をするのが『標準』ではなく、ここに書かれた熱処理をすると、このような硬さなどになりますと・・・」ということが書かれているだけです。
つまり、工具鋼は、硬さを調節して工具などに使用しますので、これでは、大した情報は得られませんので、通常は、上右の「焼き戻し温度と硬さの関係」が重要で、 目的とする硬さにするため、このグラフから、焼戻し温度を決めて熱処理することになります。

さらに、下の図は、同社の技術資料(No.288)から引用したものですが、ここには、焼入れ温度と硬さの関係が追加されています。そして、これに付随して、 硬さと機械的性質の関係などが示されていますので、さらに多くの情報が得られます。
それらを用いて、工具等の仕様を決めます。一般的な特性や仕様については、こちらに示しています。

SLD焼入れ温度と硬さ

メーカーでは、熱処理と機械的性質について、各種の技術資料を提供しています。それらを利用して、最適な熱処理をするのが「熱処理の技術力」といえるかもしれません。


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鋼種を考える場合は・・・

近年、工具に使用される鋼種は、高合金の高級鋼になる傾向が強いようです。
しかし、のみ、カンナなどの木工刃物の多くは、今日でも、「切れ味がいい」という理由から、比較的、低合金鋼が好まれて使用されています。
このような鋼種には、水焼入れをしなければならない「焼入れ性の低い鋼種」もあって、これらを、均一な硬さにするのは、日本刀の焼入れにみられるように、手作業に勝るものはありませんが、そのために、一般の熱処理業者では、取り扱っていないところも多いので、注意する必要があります。

多くの一般熱処理業者では、機械化・自動化・標準化が進んできていますので、手作業の焼入れは行っていないところも多くあり、このような焼入れ性の良くない鋼種は、 切れ味や加工性がいい鋼種が多いのですが、熱処理を請け負ってもらえるかどうかを確認してから鋼種を選ぶ必要があります。

また、しばしば、高価な材料を使えば、「均一な硬さ」に仕上がり、「高性能な製品」ができる・・・と考える方もおられますが、 硬さの出にくい鋼種や低合金鋼が劣っているということではありません。カスタムナイフなどで、加工のやりやすさや切れ味などが優先されます。このために、あえて焼入れ性が良くなくても、 使い慣れた鋼種を使っておられる方も多いようです。さらに、鋼種によっては、自分で熱処理することもさほど難しいことではありません。過去には、ガスコンロとてんぷら油でナイフの焼入れを紹介していたのですが、ぜひ熱処理に挑戦してほしいと思います。


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焼入れ硬さが出にくい鋼種の対応

カスタムナイフなどの小さくて厚さの薄い品物は、焼入れ性を気にしなければならないということはありませんが、近年では、これらにも高合金で焼入れ性の高い高級鋼が使用される傾向があります。

元来、日本刀などのように、水焼入れをしなければならない「焼入れ性の低い鋼種」では、均一な硬さを出すのは困難で、曲がりが出やすく、手作業になりますので、 一般の熱処理屋さんでは、手におえないので、注文を受けてもらうことができない場合もあるからかもしれません。しかし、焼入れ性の良くない鋼種は、逆に、切れ味(刃立て性)がいいので、これらを使って、自分で「焼入れ」を楽しむのも、一つの趣味でしょう。

焼入れ性は、鋼材の成分が関係します。上で示した、Mn(マンガン)やCr(クロム)などの焼入れ性を増す元素を加えると、少し大きな鋼材でも硬化しやすくなということはすでに紹介しましたが、もともと焼入れ性の低い鋼種は、冷却方法を変えるなどで、早く冷やす対策をしないと充分に硬化しません。水で冷却する場合には、急激に撹拌したり、噴霧したり、 食塩を入れたりして冷却性能を高めることで、焼きが入りやすくなります。

Crが12%程度入ったSKD11などは、φ100程度の太いものであっても、空冷による焼入れで、中心まで同等の硬さになりますが、もっと太いものの内部の硬さを表面硬さと同等にしたい場合には、 このように空冷で硬さの入る鋼種でであっても、油焼入れしたり、水冷と油冷を併用したり、油冷と熱浴を併用するなどの特殊な冷却方法によって対処することもあります。
もちろん、このような作業は、設備の関係もあって、どこの熱処理屋さんでもできるものではありませんが、いろいろな製品を作る場合は、標準熱処理だけでは対応できないこともあります。

とにもかくにも、高価な材料を使えば、「均一な硬さ」に仕上がり、「高性能な製品」ができる・・・と考える方も多いのですが、重ねて言いますが、硬さの出にくい鋼種が劣っているということではありません。カスタムナイフなどで、 一味違ったものを作ろうと考えている方のなかには、加工のやりやすさや切れ味などを優先されて、あえて焼入れ性が良くなくても、 使い慣れた鋼種を使っておられる方も多いです。


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熱処理の可能性や未知の領域

最近の熱処理説明には書かれていない内容ですが、一部を紹介します。
①工具鋼の不完全焼入れについては、たとえ、焼入れ性の良い空気焼入れ鋼であっても、焼入れ時の冷却速度が遅いと、マルテンサイトではなく、 ベイナイト(Bainite)という組織などが生じます。これらによって、硬さに対する衝撃値が、 急速に冷却したものよりも低下する場合があります。しかしまた、これとは反対に、割れなどを防ぐために、あえてベイナイトをださせるための 「ベイナイト処理」という言い方で焼入れの説明をされる熱処理方法があったり、あえて冷却を遅らせる、オーステンパーなどの恒温熱処理などもあります。これらについては、鋼種や硬さ範囲、品物の大きさなどの要素のほかに、ノウハウ的な秘密めいたものもあって、よくわかっていませんが、研究対象にするといいかもしれません。今後も、具体的に説明されることはほとんどないでしょう。

②その他の例で、昭和年代には、ハイス(高速度工具鋼)のアンダーハードニングという用語がありました。
これは、標準焼入れ温度に対して、 極端な低温で焼入れることで、例えば、SKH51(当時はSKH9と称されていました)の推奨焼入れ温度の1200℃で焼入れして630℃で焼戻しした場合の61HRCの硬さで用いるよりも、 1030℃で焼入れして200℃で焼戻しすると、シャルピーじん性値が高い状態になるというものでしたが、 今では、ほとんど実施されることはありません。
今では、耐熱特性に優れるハイスですので、これをすること以上に諸特性に優れた鋼材が出現したためと考えていますが、実際のところ、なぜ行われなくなったのか、私自身もわかりません。マトリックスハイスと言われるものに変わったのかもしれません。そして結局、標準的な熱処理がいいということになったのかもしれません。しかし、焼入れ性の良い鋼種であっても、 空冷するよりも急冷してやったほうが特性がいい例や、SKD11などを1000℃以下で焼入れしてやると、1030℃で焼入れしたものよりも工具成績が良かった例を経験していますので、 またまだ、熱処理には未知の部分があるような気がします。

③工具鋼の熱処理分野では、標準の熱処理とは異なる方法(上に紹介した、たとえば冷却速度をコントロールしたり、変態量を調整することなど)で、 突飛な性能を評価される例があります。高温で焼入れすると、結晶粒の粗大化などは、デメリットが多いことは周知されていますが、 高温強度が高くなって、寿命がいいと評価されるものなどがその例ですが、やみくもに行うと、思わぬ状況や悪い結果になる場合もあるので、一般の熱処理仕様としては俎上には今後も上がらないでしょう。

④それとは少しニュアンスは異なりますが、焼入れの際の冷却の基本は 「早く冷やす」と教えられてきました。経験的にもそれで問題ないのですが、実際の個々の品物を見ると、 曲りや割れの懸念などの問題がありますので、それを避けるために、例えば、あえて冷却を遅くする場合や、焼入れ変態が完了しない状態で焼戻しに移行する例など、 本に書いてある標準的な熱処理方法と違う操作をすることがあります。これは、ある意味では「ノウハウ」と呼ばれるのかもしれませんが、 これも、理由をつけて、一般的な説明をするのは難しいものです。

以上の例のように、品物に求められる品質特性は、熱処理の仕方によって変えられる要素が残っているという紹介ですが、すべてに優れた鋼種がないように、 熱処理にも選択要素があるはずだということを、頭のどこかに入れておく必要があると思っています。
当社もそうですが、近年は、ISOなどでは「標準化」する必要性が謳われて、その方向に進んでいます。「一発勝負」で最良の結果を出すことは難しいので、 リスク面を考えても、全体的には標準化が必要ですが、熱処理には未知の部分が多く、まだまだ性能アップの余地が潜んでいるということを忘れてはいけないでしょう。


焼入れによる寸法変化(変寸)

焼入れして、組織がマルテンサイトに変わると、体積は膨張します。焼入れして十分に硬化した状態では、通常は、体積が膨張して、長さも増加(伸長)します。 これが、変寸ですが、変形の原因になります。変形・変寸については、こちらで説明しています。  


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熱処理のシミュレーション

今日では、パソコンなどを使って、FEM(有限要素法)などを用いて、品物の加熱冷却など、いろいろな熱処理シミュレーションができるようになってきています。
一から機械構造設計などをすることがほとんどない当社では、机上検討に時間をかけてシミュレートするよりも、「焼いてみるほうが早い・・・」ということもあって、 つい、熱処理テストをして結果を出しがちですが、簡単に実験できない、大きな品物の熱処理検討には、シミュレーションは便利なものです。
当社の現状は、専門家もおらず、構築に時間をかけれる状況ではありませんので、実際に測温したデーターなどで補完して、パラメーターを適当に変更することなどで、 それなりに使用していますが、使い方によっては、これらは便利なものです。
今後は、安価で、簡単に使用できるものが普及してほしいと思っています。


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