鉄-炭素 2元系平衡状態図 

  
熱処理で知っておきたい状態図のポイント

状態図って、何?

熱処理の説明に利用される図

鉄・鋼・鋳物

平衡状態図と熱処理温度

通常の鋼種の状態図はない?


   

状態図って、何?

鉄炭素2元系平衡状態図の例

この図は、「鉄・炭素の2元状態図」と呼ばれるものです。この出所は少し古いものですが、大同特殊鋼(株)特殊鋼ハンドブック1985年版 より引用させていただきました。

ここでいう「2元状態図」とは、鉄と炭素の合金の各温度における状態を表しています。
半導体の材料となるシリコンなどでは、単結晶で高純度のものができますが、鉄は、高純度のものを製造することは 難しいこともあって、状態図を作ることは大変な作業で、研究者によって微妙に異なっているようです。しかし、熱処理用にこれを説明する場合は、 おおよその数字があればいいので、説明が書きこまれたこの図を用いて説明します。
(正確を期したい方は、書物などで 最新版をしらべてくださいね)
上方の「融体」は、溶けた状態ですが、区切り線(変態線)で、各相のの状態が変わっているということが示されています。(ここにある点線は、黒鉛系と言われるもので、ここでは気にしないでください)
凝固の完了を示す線がありますが、それ以下の温度では、固体の状態で状態が変化していることが示されています。固体の状態で合金化しているので、これを「固溶体」といいます。

焼入れ、焼き戻しなど、このHPで説明する鋼の熱処理においては、一番下に書いた分類の「鋼」炭素含有量部分を取り扱います。また、重要な変態線は、900℃付近に書かれた「A3」~「S点」~「K点」に至る温度です。

図中の「最高水焼入れ温度」など、赤丸で示した部分が熱処理温度の基本になりますが、その温度では、オーステナイトという状態になっています。

例えば、炭素量が0.5%の鋼を対象として説明するとすれば、 この0.5%炭素鋼は、1500℃では溶けた「融体」になっており、1100℃では、オーステナイトという状態、500℃では、 パーライトと地鉄になっているということが示されています。もちろん、常温でもその「パーライトと地鉄」状態になっているという 「状態」を示しています。

FCC?fccBCC?bcc

このように、熱処理では、「オーステナイト化する」ということが重要で、焼入れ、焼なまし、焼ならしといった熱処理はこの状態に昇温させることが基本になります。

1100℃でのオーステナイトという状態は、結晶構造が面心立方(fcc)になっており、常温の状態では、体心立方(bcc)になっているという説明を、どこかで見られたことがあるかもしれません。

温度によって「変態する」というのを利用するのが「熱処理」ですが、変態は「状態が変わること」です。

この図の変態線で囲まれた部分毎に結晶構造や化合物の状態が変わっているということですが、ただ、結晶構造というのは、目に見えないし、なじみが薄いので、しばしば、 確認するのが身近な、金属組織の違いとして説明されることが多いので、これについては、 以下の、冷却速度と金属組織のところで説明します。


熱処理の説明に利用される図

上の平衡状態図にも、熱処理に関係する温度情報が書き込まれていますが、熱処理の説明をする際には、しばしば温度変化や時間変化を交えて説明されます。

本来の平衡状態図は、合金の温度における状態を示しているだけで、温度変化や時間変化は関与しませんが、しばしば、熱処理の説明では、平衡状態図を用いて、例えば、「液体状態に溶けた 「融体」状態から、ごくゆっくり温度を下げていくと、成分に応じて、固溶体が析出して、その各部の組成を変化させながら、凝固していき、 変態点を通過する時に、違った相に変態する… 」というような説明をされることがよくあります。

温度上昇曲線の例説明のためですので、これでもいいのですが、本来、平衡状態図に温度変化を加えて説明するのは場違いですが、熱処理での温度操作を、わかりやすく説明するために、使われるのでしょう。つまり、平衡状態図を利用して、「ごくゆっくりと温度を上げていくと・・・」とか、「ゆっくりと温度を下げていった時に・・・」などのように説明されることがしばしばありますので、 その意図を理解して平衡状態図をみていただきたいと思います。

この、「ごく」「ゆっくり」というのも、いい加減なのですが、温度変化の速度が加わると、変態線は移動します。そのために、そういう温度変化をつけると、平衡状態図とは言えなくなるのですが、その変態線が移動しないような温度変化で ・・・という意味として、このように表現されていると思っておくといいでしょう。

実際の熱処理の最中には、温度が平衡するのを待っていられません。
上図は、0.3%程度の炭素鋼をソルトバスで焼入れ温度まで上げた時に実測したときの温度推移を示していますが、約800℃付近に、変態による吸熱反応が見られます。加熱する品物が大きいと、もっとはっきりした変化が現れるのですが、平衡状態図では、オーステナイトに変わる温度のA1変態点は730℃程度にありますが、それが、加熱速度が速いと、かなり上側にずれていることがわかりますね。

焼入れ変寸資料これが、焼入れなどの冷却時には、冷却の速さに伴って、オーステナイトが体心立方の結晶構造に変化するときには、加熱時とは反対に、下方にずれることが観察されます。 そして、もっと急激な冷却速度になると、上に示した面心立方から体心立方になるのではなく、 体心正方晶の「マルテンサイト」などになり、非常に硬くなって強い状態に変化します。こちらにも同じ図で説明しています。・・・・・というように、熱処理説明の話が進んでいくのですが、 このような内容の説明に進展してくると、もはや、平衡状態図の説明ではなく、冷却線図の話になり、平衡状態の話とは言えなくなるのですが、混同して説明をされる例も多いので、少しここで取り上げてみました。

また、このHPには、取り上げていませんが、磁気変化や磁気変態点なども、覚えておくといいかもしれません。

210℃付近にセメンタイトの磁気変化点があります。 これは、焼なまし冷却時に、熱い品物をマグネットリフマーで吊上げる時に、磁石がつきにくいことを実際に経験しますし、SUS304などを機械加工したときに、着磁してしまうことがあるのですが、 800℃くらいにある磁気変態点を利用しないと、それが消えないことなど、磁気に関する熱処理ネタはいろいろあるのですが、磁気変態は、その温度以上になると、常磁性体に変わります。

ここでは、平衡状態と温度変化のある変態とは、異なっているという認識でこれらの図を見ていただきたいということです。


鉄・鋼・鋳物

平衡状態図で、鉄、鋼、鋳物の分類を説明されることがしばしばあります。
ここで、横軸が炭素量、縦軸が温度ですが、まず、重要な、鋼と鋳物について・・・です。
この図では、横軸の1.7%付近にある一点鎖線ですが、これよりも炭素量が増えると、 鋼ではなく「鋳物」「鋳鉄」という分類になります。 この1.7%は、 他の資料には2%あるいはそれを超える値になっているものもありますので、 「約2%」と覚えておくといいでしょう。また、図ではC点の「遊離炭素を含む レデブライトが出てくれば、鋳物ですよ」・・・という言い方もあるかもしれませんが、現実的には、鋳物にも多くの合金成分を含むものが多いので、約2%でいいでしょう。
鋳物の特徴は、鋼より融点が低いので、溶かして鋳型に流し込めるということが可能になります。

このHPでは、図の「E点」より左の炭素量の「鋼」を対象に説明しますので、鋳物については説明は省略します。なお、ここで言う「%」は「重量%」です。 化学でよく出てくる「容量%」ではないことに注意ください。

共析パーライト亜共析鋼

次に、炭素量が0.8%付近の一点鎖線の成分の鋼「共析鋼(きょうせきこう)」を理解することが重要です。
上図は、メタルハンドブックから引用した写真ですが、左が共析鋼を焼なましした2000倍の電子顕微鏡写真、右が0.45%C鋼の焼なましした500倍の顕微鏡写真です。

右の写真で、白い部分がフェライト、黒い部分がパーライトと呼ばれます。
共析鋼を、常温で組織観察すると、 全視野がパーライトで、その部分を写真左のように拡大すると、フェライトFeとセメンタイトFe3C(3は小さな3です)の 層状組織になっています。この成分を境にして、炭素量が少なくなると(初析の)上右の写真のように、白く見えている「フェライト」が析出しますし、 炭素量共析点がそれより多くなると、(初析の)セメンタイトが 混在して析出してきます。(炭素鋼の焼なましをすると、下の写真のように、結晶粒界に網状に析出します)

「初析の」とは、変態点を通過したとき、共析組織と独立して 別の組織が出てくるという意味あいです。
右の写真のように、C量が低くなってくると、白く見えるフェライトが析出してくるというように、組織から区別ができます。しかし、多くの鋼(鋼種)は、 鉄、炭素以外の元素が加えられていますので、それらが複雑に化合することで、 多様な金属組織になりますので、組織を見て区別できるようになるには、見慣れないといけないでしょう。
下の写真は、炭素鋼の焼なまし組織の一例です。倍率は適当ですが、400倍程度です。
c量と焼きなまし組織

これらの炭素量による変化としては、炭素が主要な合金成分である、JISでいえば、機械構造用炭素鋼(S10C~S58C)と、刃物などに使われる SK材とよばれる 「炭素工具鋼(SK60?SK140)」を見るといいでしょう。S10CのC量の中央値は0.1%、SK60は0.6%で、SK85(以前の規格名はSK5)が 0.85%で、ほぼ共析成分になっています。

上の写真は、焼なましした組織ですが、左から、「全フェライト」で、フェライトの結晶粒界が見えている状態、次が、「フェライトとパーライトの混合」で、 白い部分がフェライトです。C=0.85%の共析鋼になると、「全パーライト」になっています。一番右側は「パーライトと網状のセメンタイト」 という組織で、炭素との化合物のセメンタイトという組織がパーライトからなる結晶粒界に析出している組織というように説明されます。

【亜共析・共析・過共析】 共析鋼が全パーラート状態、それより炭素量の低い鋼フェライトが析出する鋼を「亜共析鋼」、逆に、 炭素量が多くセメンタイトが析出する鋼を「過共析鋼」と呼ぶ場合もあります。

炭素量の多い SK3(同 SK105)などは、焼入れして高硬度材として多用されていますが、これは、焼なまし状態では過共析の状態となっているために、 Fe3C系(3は小さく書く)の非常に硬い炭化物が析出して、 より耐摩耗性が高くなるのだろう・・・・ というイメージにつながっていけば、 この平衡状態図の理解度が高まると思います。
(注意)焼入れした組織はこれとは異なります。


平衡状態図と熱処理温度

焼入れ、焼ならし(焼準)、焼なまし(焼鈍)などの熱処理において、A3変態線(平衡状態図で、炭素量によって900℃から730℃程度になっている線)以上の温度に加熱されると オーステナイトと呼ばれる組織に変化します。 (注:3は小さく書きます。このHPでは、 個々にはお断りしないで表記していますので、適当に判断しながら添え書きの数字を読んでください)

また、何度も繰り返しますが、この図は平衡状態図ですので、加熱速度や冷却速度は関与しませんが、熱処理のための説明として利用していることを念頭においてくださいね。このあたりの私の経験では、他のTTTやCCTの図表と混乱して教えている人も多いようでしたが、これも、金属学者の話ではなく、熱処理理解のためですので、 自分で理解しやすいように扱えばいいでしょう。

ここで見てほしいところは、炭素含有量によって適正な熱処理加熱温度が変わるということです。
例えば、焼入れ温度について言えば、C量が低いほど、 高い温度に加熱することになっています。

図中に 「最高」という表示があります。この温度以上に加熱すると、結晶粒が粗大化して、機械的性質が劣化するという意味です。 このため、 JISなどでは、鋼種に応じて標準加熱温度を示してありますので、実際に熱処理をする場合は、それぞれの鋼種について、JISやメーカー資料にある温度や 操作標準に従って熱処理するということになりますが、高い焼入れ硬さがほしい場合は、その温度範囲の高めを、強靭性がほしいなら、 その温度範囲の低目の温度を使用する・・・ということもあわせて覚えておいてください。これは、工具鋼などの焼入れについても重要ですので、 そこでも説明しますが、いずれにしても、標準加熱温度範囲を外れるのは、好ましくありません。 

この、最適な焼入れ温度の決定方法は、この状態図の説明としては、安定した状態に、元素を「固溶」させることが条件の一つになりますが、 通常では、焼入れ硬さと機械的な性質で決定します。これは、焼入れ温度の決定方法などで説明しますが、結晶粒の大きさや焼入性などが関係します。 ここでは、炭素量と加熱温度を理解するためのイメージとして状態図を見ていただく程度でいいでしょう。

ここで、最低加熱温度は?というと、A3線からA1線に続く温度ということですが、このA3/A1 点は、やはり加熱速度によって 上方に移動しますので、 この状態図にその加熱温度を載せて説明するのも違和感がありますが、いずれにしても、これは、理解のためのものですので、「JISやメーカーが示す標準加熱温度」 を基準にすればいいでしょう。つまり、ここでは簡単に、「加熱熱温度よりも、高くても低くても、充分に焼きが入らないという結果になる」ということを記憶ください。


<<タイトルへ>>


通常の鋼種の状態図はない?

近年では、熱処理に関しては、この「鉄―炭素2元系平衡状態図」以外は、あまり見かけなくなりました。昭和の終わりぐらいまでは、ステンレス鋼の説明のために、 Crの%量を限定した3元状態図などを見かけたものです。

今、市中に出回っている鋼は、C,Si,Mn,Cr,Mo,Vなど多くの合金元素が加えられるものも多いですし、不純物としての、P,S,Cuなどの元素も加わっていますので、 「多元系」と言えます。ここで今、2元系の状態図に炭素以外の合金元素が1つ加えた状態図を作るとなると、3元系の状態図と言うことになりますが、 これは、立体的な模型を作ることで可能です。しかし、元素が4つになる状態を表現したいのならば、 4次元図が必要になりますので、目に見えるかたちでは表現できないということになってしまいます。このために、一般の鋼材などの状態図は作れない・・・ということになります。

また、加わる合金元素の量が「少し」であっても、 状態図は全く変わったものになってしまう可能性は十分にあるということですので、 この2元系の状態図さえも作るのは難しいと言えます。現実には、いろいろな状態図が公表されています。
こういう、作るのが難しいという理由に加えて、それらは、特に有用性が高くないということから、状態図の研究が下火になったと考えていいかもしれません。

以上の事から、熱処理に関しての平衡状態図では、①炭素量による鋼の位置づけ、②熱処理に重要な「オーステナイト化温度」などを理解できればいいと思います。
ここに示したものは、説明用ですので、正式な内容は書籍等で調べてください。

 
ページのトップへ戻る