熱処理部門 HEAT TREATING

かんたんな熱処理解説

当社に関係のある熱処理用語を大まかに理解していただくための解説です。
少し広範囲な熱処理についての解説は、くわしい熱処理解説をご覧ください。

熱処理とは

「熱処理」は、品物に熱を加えるなどで何か操作することですが、ここでは、鉄鋼やその他の金属を加熱・冷却操作を行って、希望する所定の性質や状態を付与することを「熱処理」と呼んでいます。

「鉄鋼」は、鉄と炭素の合金で、温度を高めていくと、ある温度で結晶構造や性質が変化します。熱処理用語で、その相変化を「変態」といい、その温度を「変態点」といいますが、それを利用して、高温の状態から、冷却する速度を調節して冷却すると、硬さなどの機械的性質を変化させることができます。
これを利用して、鋼を柔らかくする「焼なまし」、硬くする「焼入れ」などを行います。もちろん、変態点以下で行われる、鋼をねばくする「焼戻し」、応力除去や軟化のための「低温焼きなまし」など、目的に応じた、様々な種類の熱処理があります。

目的別には、①硬さなどの機械的性質を変化させる、②さびにくくする、③表面性状や性質を変える、④均質化する、⑤機械的性質以外の性質を調整する・・・など、様々な種類の「熱処理」が行われています。品物全体を対象にしたものや、表面や部分的な処理もあります。しかし、一般的に、鉄鋼の熱処理と言えば、「焼入れ・焼戻しによって硬さなどの機械的性質を調整すること」と捉えられていますので、ここでは、工具などの鉄鋼製品全体の「焼入れ・焼戻し」を中心に説明します。
【鉄鋼種(鋼種)と熱処理】
鋼は鉄と炭素の合金ですが、さらに、そのほかの合金元素を加えることで、熱処理における操作性や特性や強度が向上しますので、様々な目的に合った鋼種が製造され、販売されています。

鋼種名については、機械構造用鋼(例えば、S45C・SNCM439)などはJISなどの規格で分類され命名されて各社から販売されていますが、特殊鋼や工具鋼では、用途や特徴を強くPRされるものは、各メーカーが独自に名付けた「メーカー名」で呼称されるものが多いので、これらを熱処理する場合は、JIS鋼種名ではなく、メーカーの鋼種名で呼称し、メーカーが推奨する熱処理方法をとるのがいいといえます。

販売されている鉄鋼種の中には、すでに何らかの熱処理が行われているものもありますし、反対に、購入したまま熱処理なしに使用されるものや、熱処理をする必要のない鋼種もたくさんあります。

工具や機械部品などで、機械加工した後に硬くする必要があるものは、仕上げ加工の前に「焼入れ・焼戻し」をしますが、このような熱処理が必要な鋼種については、JIS規格やメーカーカタログなどには必ず、熱処理の目的や標準的な「熱処理条件」が示されています。それを基にして目的の品質が得られる熱処理をするということになります。
【加熱・冷却】
焼入れの場合には、ガスや電気を熱源にした「加熱炉」を用いて全体加熱する「全体焼入れ」が一般的ですが、それ以外に、高周波電流などで表面部や一部分だけを加熱する方法もあります。

冷却は、水冷、油冷、ガス冷、空冷などの方法があり、さらに、それらを攪拌したり流量を調節して冷却速度を調整します。
連続的に冷却するだけではなく、冷却途中で冷却速度を調整することや、一定温度で保持する恒温処理などの、何らかの特性を付与する熱処理も行われています。
【加熱・冷却】
焼入れ温度などの温度条件、焼入れ時の冷却方法、その温度に保持する時間などの時間経過、さらに熱処理方法や手順などを「熱処理条件」といいます。
しばしば、下図のような「熱処理線図」で、熱処理の工程や手順が示される場合もあります。
加熱・冷却
鋼種ごとの標準の熱処理条件や硬さなどの基礎データはJIS規格やメーカーカタログに掲載されていますので、通常は、これを基本に品物を熱処理しますが、それらは小さな試験片を使った試験結果ですので、実際の品物の大きさや形状によっては、熱処理後の状態がそれと同じにならない場合があります。
【熱処理依頼】
熱処理を、自社(自分)ではなく、熱処理を専門業者などに依頼する場合が多いと思いますが、この場合には、①何を(材種(鋼種名))②どうしてほしいのか(目的や硬さなど)を示せば、どんな熱処理方法をするのかは決まります。
この時に、図面や熱処理の仕様書などの要求事項を示すものがあれば、それに基づいて打ち合わせすれば、ほとんど確実にその内容を伝えることができるようになっています。

熱処理後の品質は、ほとんどの場合は、硬さと外観で判定されます。これは、熱処理後の硬さと組織、機械的性質などの関係等について、
他の実験結果や経験による多くのデータがあるためです。

焼入れ・焼戻し

簡単にいえば、「硬く、強くする操作」です。やや専門的な説明では、工具用の鋼種の例にとると、「焼入れとは、鋼種ごとに決められた、およそ800℃以上の温度に加熱してオーステナイト状態になった鋼(鉄鋼)を、決められた冷却方法で冷却してマルテンサイトという組織に変化させると、品物は非常に硬くなり、変態点を超えない温度に焼戻し(再加熱)することで、硬さの低下とともに、ねばくて強い状態になる・・・」などのように説明されます。

焼入れしたままの状態の鋼は硬くて脆く、組織的にも不安定の状態ですので、それを、時間を置かずに150~650℃程度に再加熱して硬さを調整するのが「焼戻し」です。この「焼入れと焼戻し」をすることによって、鋼は強さとねばさのある状態になります。

高炭素高合金鋼(例えばSKD11)などでは、空気中に放冷しても十分に硬くなる鋼種もありますし、低炭素・低合金鋼(例えばS45C)などでは、水中で急冷しても、十分な硬さが得られない鋼種もあります。鋼種ごとにそれぞれの特徴がありますので、JIS規格やメーカーカタログなどから、用途・目的に応じた鋼種を選び、そこに示された焼入れ条件や焼戻し条件を基に熱処理します。

焼戻し後の硬さは、焼戻し温度の上昇につれて低下していきます。また、高合金鋼では、500℃以上の焼戻しによって、硬さの再上昇(これを2次硬化といいます)がみられる鋼種もあります。このように、焼戻しでは、硬さの変化とともに、その他の機械的性質を調整する操作といえます。

一般に流通している鋼では、鋼種の成分と熱処理条件(焼入れ温度・焼戻し温度・冷却方法)とともに、標準的な熱処理条件とそれに対する硬さや機械的性質などが公表されていますので、通常の熱処理依頼での熱処理後の検査は、硬さと外観の検査だけを行う場合がほとんどです。それとは別に機械的な試験をするのは費用や時間がかかりますので、ほとんどは行われていません。

カタログなどに掲載されている熱処理試験データの多くは小さな試験片によるものですので、品物が大きくなれば、それらのデータと違ってくる・・・と考えておかなければなりません。さらに、形状が複雑ものでは、変形や割れの危険性のために、焼入れ方法を変える場合もあり、それによって硬さやその他の特性値も変化します。つまり、品物の大きさや熱処理の仕方によって、硬さや機械的な性質は変化しますので、たとえ、硬さが同じであっても、小さな試験片と同じ品質になっているというものではないことを知っておくことは重要なことでしょう。

無酸化熱処理

鋼を大気中で高温に加熱すると、酸化被膜の付着や脱炭などで表面が変質します。
これらは、焼入れをしたときに、表面の硬さが充分に出なくなったり焼割れの原因にもなりますので、これを防ぐために、ソルトバスによる加熱や窒素ガス雰囲気での加熱、大気を排気しながら光輝状態で品物を熱処理する真空熱処理・・・などが行われます。このような、鉄鋼の加熱中の酸化を防ぐ熱処理法を総称して「無酸化熱処理」と呼び、見栄えの良さや熱処理後の仕上げ加工手間を減らす目的から、工具鋼などの高級鋼では、これらが熱処理の主流になっています。
無酸化熱処理
真空熱処理では、各種の真空ポンプを使って脱気しながら電熱加熱するものが多いのですが、宇宙のような高い真空度にすると、高温では鋼中から合金元素が抜ける現象が生じるために、「低真空(または中真空)」の脱気状態で加熱し、加熱時の熱効率や均熱性を高めるために、脱気しながら微量の窒素ガスを流して光輝状態を保つタイプの加熱炉が主流です。また、焼入れ冷却の際には大量の窒素ガスを流して冷却する方法が多く採用されており、真空熱処理は、従来の大気雰囲気のものに比べると高価な熱処理法といえます。

「真空熱処理」では、ほとんど熱処理前の光輝肌のままに仕上がりますので、工具の熱処理に多用されています。窒素ガスでの冷却速度は、油焼入れに較べて遅いために、品物が大きくなるにつれて、熱処理後の機械的性質が劣ってくるので、窒素ガスの流量や風速をあげて急速に冷却する「加圧冷却」という方法がとられます。しかし、強力に冷却すると、品物の歪(曲り)が生じやすいことから、これにも限界があり、早い冷却速度を得る必要がある場合は、ガスによる冷却ではなく、油やソルト(塩浴)による焼入れを検討する必要があります。しかしその場合にも、真空炉以外の設備では、光輝性や外観が異なるなどもあるので、熱処理設備の特徴をあらかじめ知っておいて選択するといいでしょう。

焼入れ性と質量効果

焼入れをした際に、表面硬さが高くて内部への硬さ低下度合いが低い鋼材を「焼入れ性がいい鋼種」と表現されます。また、鋼材の質量(体積)が大きくなると、小さいものと比べて、表面や内部の硬さが出にくくなりますが、これを、「質量効果による硬さ低下」という言い方をされることがあります。

これらは、C・Mn・Crなどの焼入れ性を高める元素を加えることで改善されます。高合金工具鋼や空気焼入れ鋼と呼ばれる鋼種は、これらを適宜に加えることで、焼入れ時の硬さが高いうえに表面硬さと内部硬さの差が小さくなるようにしたものです。

反対に、焼入れ性が低い鋼種は、品物が大きくなると、焼きが入りにくくなる(つまり、硬くなりにくい)ので、急冷度合い(空冷→油冷→水冷や攪拌を強めるなど)を高める必要がありますが、それによって変形しやすくなりますので、複雑形状の型材などでは、焼入れ性の良い高合金鋼を使用される傾向にあります。

しかし、市販されている鋼種は、焼入れ性が高いものばかりではないところをみれば、焼入れ性以外の特性を評価されているためで、焼入れ性は一つの指標にすぎません。各鋼種にはそれぞれの特徴がありますので、材料を検討する場合には、メーカーカタログなどを参考にして、大きさや形状的にその鋼種の特徴を生かす熱処理ができるかどうか・・・を考えて材料を選定しなければなりません。

機械的性質

引張強さ、疲れ強さ、じん性、硬さなど、機械的な変形や破壊に対する材料特性を「機械的性質」と言います。熱処理はそれらを変化させる操作ですが、これらの試験の多くは、破壊して調べる試験のために、通常の製品での試験ができません。
機械的性質を試験する場合には、何らかの方法で品物と同等に熱処理した試験片を作って試験することになりますが、必ずしも、同等の試験片を作るにも問題があるので、これらの試験を行うケースは非常に少なくなっています。
これを補うために、熱処理の文献、JIS規格、メーカーのカタログなどには、鋼種ごとの、熱処理後の硬さと種々の機械的性質との関係が示されています。
通常は、硬さ値から機械的性質を推定できるので、熱処理後の硬さで品物の評価判定がされているといっていいでしょう。

硬さ検査は、抜き取り検査が通例で、品物の表面硬さを直接に測定します。測定痕が残りますので、測定位置指定することや、試験片(テストピース)を同時に熱処理して、それを測定する場合も可能ですし、もしも、熱処理工程中の硬さ測定が困難な場合には、硬さ測定しないで、熱処理条件だけの取り決めで熱処理をする場合などもありますので、事前の打ち合わせをするといいでしょう。

近年は、焼入れ性に優れた鋼種が多くなっており、表面硬さのばらつきが少ないことなどとともに、検査方法の標準化も進んでいますので、取り決めがなくても、硬さ測定でのトラブルが起きることは少なくなっていますが、品物の焼入れ性や質量効果の影響は避けられませんし、個々の品物の特殊な事情もありますので、できるだけ、事前に、検査方法の取り決めをしておくのが安心です。どの部分を、どのような方法で測定するのか、その結果をどのように判定するか・・・などの項目について、熱処理前に聞いて確認するだけでもいいでしょう。

熱処理変形

最も問題となることの多い、焼入れ焼戻し時の変形について簡単に説明します。

熱処理変形は、加熱冷却中の膨張収縮による「熱変形」と、組織変化に伴って生ずる「変態による体積変化」が複合して発生します。
(もっとも、機械加工の残留応力や、焼き入れ前の焼きなまし組織の品位なども関係する場合もありますが、ここでは取り上げません)

熱変形に対しては、熱処理過程で、(1)温度むらを少なくする (2)加熱速度を遅くする (3)予熱などで急激な温度変化を加えない(4)冷却の方法を工夫する、特殊な方法を用いる・・・などで軽減することができますが、変態による変形(これを「変寸」と呼びます)が複合して変形に作用しますので、変形傾向程度は推測できても、対策できるまでには至っていません。

変寸は、焼入れ時に「マルテンサイト変態」によって硬さが上昇するときの体積膨張と、それが焼戻し温度に伴って硬さとともに体積が変化していくことで、熱処理条件(温度)につれて変化します。

変寸量の試験結果が示されている鋼種もありますが、これらは一つの計測例にすぎず、焼入れ後の焼戻し温度に伴う変寸傾向はわかるものの、現実的には、質量効果や形状的な要素、素材の製造履歴などの影響が加わるために、これらの図表からは、変寸量を事前に予測するのは難しいことです。

変寸や変形の予測は難しいのですが、穴位置などの1方向のずれは、同様のものをあらかじめ熱処理して予測するか、過去のデータ利用して変寸量を見越して加工するという方法がとられます。しかし、熱処理依頼品などの初回品では、材料取りの状態などの材料履歴がわからないために、このような対応も難しく、「矯正」できないものについては、一般的には、余分に仕上げ代(しあげしろ)をつける以外の対策は難しい状態です。

矯正ができるかどうかは、材質、形状、硬さなどの条件によります。硬さが300HB程度以下の単純形状のものは、冷間でプレス矯正やロール矯正が可能ですが、それ以上の硬さになると、加熱して矯正するか、治具などを用いて、焼戻し温度を勘案しながら、品物を加熱・拘束して矯正する方法があり、これを「プレステンパー」と言います。また、焼入れの冷却中に、治具などで拘束を加える方法で矯正する「プレスクエンチ」という方法もありますが、いずれも、矯正には、通常に加えて、手間と費用がかかります。

硬さ

硬さは、硬さ試験機で測定します。JIS規格に、ロックウェル硬さ、ショアー硬さ、ブリネル硬さ、ビッカース硬さなどの硬さ試験機や試験方法が規定されています。硬さ範囲、操作性、再現性などで、それぞれの試験機には長短所があります。

硬さの測定原理は、ショアー硬さ試験では「硬いものほどよく弾む」ということを利用しており、その他の硬さ試験は「硬いものほど変形しにくい」という性質から、ダイヤモンドや超硬合金などを押し込むことで測定され、その硬さ値と表示方法はJIS規格によって定められています。
それらの相互関係は、「硬さ換算表」に示されています。

「硬さ」は①製品を直接測定できる、②簡単・安価、③非破壊試験である、④再現性が高い・・・などの利便性とともに、硬さ値から引張強さなどの機械的性質を推定できることもあって、通常の熱処理評価には欠かせないものになっています。
また、硬さ値とその精度を保つための仕組みや、国の標準に至る「トレーサビリティー」が確立されていて、信頼性も高いことから、通常の品物に対しては、硬さ試験以外の機械的性質を評価する試験は、ほとんど行われていない状況だといってもいいでしょう。

しかし、熱処理する品物は多様で、JIS規格に書かれた試験方法に合致しない形状や状態の品物も多く、指定された硬さ試験機を使用できない場合や、正しい硬さを測ることが難しい場合もしばしばあります。このために、①技量認定を受けた試験者が、②正しい硬さが測定できる試験機を用いて検査して、③「硬さ換算表」用いて換算して硬さ評価する・・・という方法で正確さや確実性を維持しています。

ISO9001やJIS表示許可を受けた工場などでは、これらの手順や方法を社内標準化して実施されていますので、硬さについて大きなトラブルになることはありませんが、熱処理依頼をするときに、疑問や不安があったり特定の仕様・要求がある場合には、事前に硬さ検査方法などを協議しておくといいでしょう。

ISO9001認証・JISマーク表示許可

これらを認証取得済みの会社や工場では、熱処理作業の作業手順、検査の方法、記録の保管管理などが標準化されて実施されており、安心して熱処理依頼していただくことができるでしょう。
当社(第一鋼業)も、熱処理加工及び機械加工等の業務の全部門でISO9001の認証を取得しており、国内外の鋼材を用いたいろいろな機械部品や製品を工場内で一貫加工していますので、熱処理だけでなく、熱処理を含めた製品の製作加工を安心してお任せいただけます。無料で見積り・相談に応じております。